ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY (2022):映画短評
ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY (2022)ライター5人の平均評価: 3.4
彼女の歌は、何を伝えたかったのか?
80年代を知る者としては歌を含めて懐かしく見たが、ノスタルジーだけでは済まないドラマの面白さも味。
同性の恋人との葛藤、父親との愛憎、一見ドライだが実は深いビジネスパートナーとの絆、夫ボビー・ブラウンとの破局へと向かう道程。ホイットニーを中心にした人間関係が細やかに描かれており、ときに高揚し、ときに悲しく切ないドラマの抑揚に魅了される。
全体を俯瞰すると伝えたいテーマがボヤケており、『ボヘミアン・ラプソディ』のような熱が感じられないのは少々残念。歌唱シーンの大々的なフィーチャーから歌いたいという熱意は伝わってくるが、それが物語と連動しきれていないのが歯がゆい。
デビューのきっかけを作った最初のパフォーマンスがいきなり圧巻
『ボヘミアン・ラプソディ』と同じ脚本家らしく、キャリアで重要となったステージの“チラ見せ”で始まり、その全貌が映画のどこで観られるか…とテンションをキープ。その構成がうまい。
プロデューサーに認められた最初のパフォーマンスが「あの曲」なのもインパクトが大きく、全編にわたりホイットニー本人の音源がメインに使われたこともあり、改めてその歌唱力に平伏す。N・アッキーの本人寄せ具合もちょうどいい。
シーンの繋ぎが唐突だったり、重要パートの感情がイマイチ伝わってこなかったりするのは、もしかして人生終盤の精神的混乱を映画そのもので表現したから? その分、劇的なことが続いているわりに淡々とした展開の印象。
優れた音楽伝記映画のお手本!
ホイットニーの親族が制作に携わっているということで、一抹の不安を感じないでもなかったのだけど、結論から申しますと全くの杞憂でしたね。ポピュラー音楽史に燦然と輝く偉大なディーヴァ、ホイットニー・ヒューストンの半生を、その長所も短所も含めた人間臭い部分にフォーカスして描いた実に率直な伝記映画。特に印象に残るのは、あれだけの大スターをもってしても、家父長制や宗教の束縛に苦しめられていたこと。女性映画としても見るべきものがある。プロモーションビデオやステージパフォーマンスの再現度も素晴らしく、デビューからリアルタイムで追って来たファンとしては鳥肌もの。優れた音楽伝記映画のお手本みたいな作品だ。
数々の名曲が彩る、偉大なる歌姫の半生
ドキュメンタリー『ホイットニー~オールウェイズ・ラヴ・ユー~』ほどの衝撃はないものの、見どころは長年公私ともにパートナーだったロビン・クロフォードとの関係性に加え、白人にも愛されたR&Bシンガーとしての彼女の功績をしっかり讃え、リスペクトしている点。そのため、同じ脚本家アンソニー・マクカーテンが手掛けた『ボヘミアン・ラプソディ』同様、数々のヒット曲を使った見せ場が巧い。大きな転機となった『ボディガード』撮影時のエピソードも飛び出し、「あの頃」が甦っていく。前作『ハリエット』同様、一人の黒人女性の半生を描いたケイシー・レモンズ監督の力量もあり、144分の長尺も気にならないだろう。
歌を歌うことの歓喜が輝く
コンセプトが明確。映画はただただホイットニー・ヒューストン自身の声を響かせ、それを歌っている時のその人物を輝かせることだけを目指して創られている。そのために、歌声はレコードの音ではなく、オリジナル音源をリミックス。歌はみな一部分ではなく1曲丸ごと歌われる。それを聴かせるために、映画はたっぷりと長い。歌を歌うときの歓喜を全身で表現する、主演のナオミ・アッキーの演技力も圧倒的。こうして創造された歌唱シーンが、身体能力抜群のスポーツ選手の技を見るような気持ちよさを与えてくれる。
そのように創られた映画なので、描き方によっては悲劇になりかねないこの人物の半生が暗くはなく、最後まで強い光を放つ。