トゥモロー・モーニング (2022):映画短評
トゥモロー・モーニング (2022)ライター2人の平均評価: 3
ありふれた話もミュージカルだからこそ輝き出す
大恋愛の末に結ばれ子宝にも恵まれたものの、結婚10年目にして破局してしまった夫婦。いよいよ明日には協議が成立する。そんな離婚前夜を迎えた夫と妻のそれぞれが、懐かしい結婚前夜の出来事を思い出しつつ、どうしてこうなってしまったのかを自問自答していく。ありふれた話といえばその通りだが、しかし本作はそれをミュージカルに仕立てることで、主人公たちの繊細な心の揺れ動きを丹念にすくい上げていく。セリフだと作為的に感じられるような言葉も、歌詞としてメロディに乗せると違和感が消え、むしろ直接感情へ訴えかけてくる。極めてシンプルな話だからこそ、そんなミュージカルの醍醐味をストレートに楽しませてくれる映画だ。
ミュージカル界の最高の才能が、映画でも通用することを目撃
ここまでキャストの実力に頼るミュージカル映画も少ない。恋が燃え上がる20代と、そのカップルが別れの危機を迎える30代。10年の歳月が行き来する展開は、各時代を別のキャストが演じたオリジナル舞台版と違い、この映画版で一人に託される。それだけでハードな挑戦なのだが、主演2人は、それぞれの年代の喜びや悩み、すれ違う想いをきめ細やかに歌に込めており、共感の渦に巻き込れる人も多いだろう。
ダンスナンバーはわずかで、圧倒的に歌唱力を満喫させる作り。男性側ラミン・カリムルーを本作で初めて観る人は、ワイルドさと繊細さを自在に行き来する“神ボーカル”と、2つの時代が向き合うシーンでの演じ分けに感嘆するはず。