マッシブ・タレント (2022):映画短評
マッシブ・タレント (2022)ライター5人の平均評価: 3.4
スターの性(さが)を滲ませたニコケイのセルフ・パロディ映画
かつてはハリウッド映画界の大物スターだったものの、落ちぶれた今では生活のためにやたらとB級映画ばかり出ている俳優ニコラス・ケイジを、ニコラス・ケイジ本人が演じるB級エンターテインメント。で、小遣い稼ぎのために出かけたスペインで、CIAの誘拐事件捜査に協力する羽目となり、しまいには組織に拉致された娘を救い出すために戦うという『96時間』みたいな話になる。しかも、コンビを組むのが熱狂的なニコケイ・マニアで映画オタクの大富豪(笑)。自己愛強めなスターという生き物の性(さが)を滲ませつつ、嬉々としてセルフ・パロディを演じるニコラス・ケイジが痛快。最後にはあの元大女優まで登場してニヤリとさせられる。
俺たちの大好きなニコケイに、愛をこめて
よくもまあ、ニコラス・ケイジを口説き落としたもんだ……という第一印象。きちんと敬意を持って、彼を笑いの素材にしている点がイイ。
ニコケイの出演作へのオマージュをまぶしつつ、架空のニコケイを主人公にした物語はアクションとギャグに彩られ、目の離せない展開に。大人になり切れない大人という設定が共感を引きつけるうえで生きた。
当初の脚本で主人公はダメ親父キャラだったが、当人からの要望を受け、子どもへの深い愛情をうまく表現できない父親に変えたとゴーミカン監督は語る。そんな彼の最愛のニコケイ映画は『赤ちゃん泥棒』とのこと。信用できるじゃないか!
溢れるニコケイ愛と、『パディントン2』リスペクト
『その男ヴァン・ダム』などにも通じる、ご本人主演の自虐ネタからの巻き込まれコメディ。設定や台詞など、小ネタ満載の脚本も手掛けたトム・ゴーミカン監督のニコケイ愛に溢れているのが最大のポイントであり、クスリでキメまくるニコケイとペドロ・パスカルのブロマンス的ノリに終始ニヤニヤ。とはいえ、スパイ任務を背負うという本筋に関しては、既視感が強い懐かしさ止まりであり、もうちょい暴走して欲しかった感アリ。観れば、間違いなくニコケイ好きになる一本ではあるが、劇中で熱く語られる『フェイス/オフ』よりも、『パディントン2』と『カリガリ博士』を観返したくなる謎の仕上がりが笑える。
「マンダロリアン」のパスカルのコメディ演技も楽しい
ニコラス・ケイジを誕生パーティに招く大富豪がケイジの超オタクという設定で、彼の出演作の名シーンのパロディが山盛りで、それだけでニヤニヤ。本人が本人役を演じる映画は痛々しくなってしまうことがあるが、本作にそれがまったくないのは、監督のケイジへの敬意が溢れているうえに、ケイジ自身が製作にも加わり面白がって演じているからだろう。ケイジのキャラが言う台詞「落ちぶれていないけどな」に説得力がある。
大富豪役のペドロ・パスカルもイイ味。「マンダロリアン」「THE LAST OF US」とちょっと無愛想な役が続く彼が、キュートな部分を発揮。ケイジとの相性も良く、2人のオーバーなコメディ演技合戦も楽しい。
ニコケイのファンなら悶絶するほどに愛すべき逸品
トム・クルーズと比べるとわかりやすいが、ニコラス・ケイジは当たりハズレの激しく分かれるスターで、特にこの10年くらいは自虐としか思えない作品チョイス、演技も見受けられ、それを偏愛する人も多かった。ニコケイは、あくまで自虐に無意識。そこが味わい深かった。しかし本作では意識的に自虐する姿が逆の意味で新鮮。
ストーリー自体は、やや破綻し、ツッコミどころ散見も、ニコケイファンには愛すべきポイントが過剰に上回る。出演作へのオマージュネタもかなりハッキリ。ニコケイが自己愛マル出しの爆笑シーンもあれば、お気に入り映画への世間の低評価を口にするし、アクションへの余裕の対応も含め微笑ましさのオンパレードである。