いつかの君にもわかること (2020):映画短評
いつかの君にもわかること (2020)ライター2人の平均評価: 4
淡々とした静かな語り口がより胸に迫る
欧米では血のつながらない親子は珍しくないが、今作は養子縁組をまるで違う視点から描く。幼いわが子をとても愛しているのに、自分は死ぬので、新しい親を見つけてあげなければいけないのだ。実話から想を得たという、なんとも辛く悲しい話。だが、パゾリーニ監督は、お涙頂戴になるのを徹底して避け、抑制をきかせつつ、静かに語る。主人公のシングルファザーは窓拭き清掃員。ひとりで働くことに慣れている彼が、息子のために数多くの人に会うのだ。そこもまた強く胸に迫る。それらの人たちの中から彼は誰を選ぶのかは、最後までわからない。そもそも、理想的な親、子供の幸せとは何なのだろうか。いろいろなことを問いかけてくる傑作。
言葉に出せない想いを静かに丁寧に描き出す
主人公と幼い息子の気持ちは、セリフでは表現されない。彼らのふとした仕草や、何かを見つめているときの表情がじっくり映し出されて、そこにさまざまな想いを読み取らせる。病のため死期が迫るシングルファーザーが、4歳の息子の養子縁組先を探して多数の候補に会うが、どの家族を選べばいいのか決められない。父が息子に尋ねたいこと、伝えたいことは無数にあるが、息子の年齢では理解できないので、それを言葉にはしない。
監督・脚本は、エディ・マーサン演じる英国地方公務員が身元不明の故人の縁者を探す『おみおくりの作法』のウベルト・パゾリーニ。本作でも、どこにでもいる普通の人の秘めた想いを静かに丁寧に描き出す。