この小さな手 (2022):映画短評
この小さな手 (2022)ライター2人の平均評価: 3
日本の子育てを巡る様々な問題を浮き彫りにした作品
子育てには全くの無関心で、仕事の忙しさを言い訳にして妻へ任せっきりだった男性。その妻が不慮の事故で意識不明の重体となり、ようやく娘に目を向ける気になった主人公だが、しかし養護施設へ預けられた幼い娘は父親を父親と認識してくれず、悩む彼は周囲の人々に助けられながら「父親」になろうとする。深刻な少子化がますます加速する現代日本社会の、子育てを巡る様々な問題を浮き彫りにする作品。非常に重要かつタイムリーなテーマを描いており、追い詰められた子育て世代に寄り添う姿勢も共感できるのだが、しかしそれだけに主張したいことが前面に出過ぎてしまい、いろいろと作為的なお話になってしまったことは惜しまれる。
『恋は光』の助監督が長編監督デビュー
突然の妻の入院により、育児放棄していた夫が改めて子どもと向き合うために一念発起。と聞くと、ちょっといい話に見えるが、肝心の娘は児童養護施設に預けられ、自分の顔すら認識すらしていないという、かなりマイナスからのスタートというのが、事の深刻さを物語る。『恋は光』の助監督も務め、本作が長編デビュー作となる中田博之監督が綿密な取材を重ねただけに、保育士や相談所の職員とのやり取りがとにかくリアルだ。一方で、思い通りにいかない主人公(死んだ魚のような目をした武田航平が好演!)を支えるアパートの大家一家などの人情味溢れる言動に癒される。そんな中田監督の丁寧かつ繊細な演出も見どころだ。