オットーという男 (2022):映画短評
オットーという男 (2022)ライター4人の平均評価: 3.8
あたたかさそのままの、ナイスなリメイク
自殺願望の強い頑固老人を演じるのが、トム・ハンクスという妙。『幸せなひとりぼっち』の精神を受け継いだリメイクだが、展開がわかっていても、それだけで魅了される。
オリジナルの脚本がよくできているだけに、それを忠実に再現したのは正解。主人公と移民一家の交流には温かいものが宿るし、ハンクスの“泣き”の演技も生きる。社会的弱者に目を向け、車社会を踏まえた設定は『グラン・トリノ』の陰も浮かび上がり、しっかりアメリカ映画仕様となった。
ハンクス以外のキャストもハマリ役で、主要キャラのすべてが記憶に残る。ネコの“好助演”も付け加えておこう。
職人監督×名優による、いい仕事
向かいに越してきた一家がプライベートに土足で踏み込み、人生を諦めていた頑固オヤジの心に変化が訪れる。まさに長屋ものな人情ドラマであり、いきなり“名もなき英雄”となるエピソードなど、オリジナル『幸せなひとりぼっち』にかなり忠実。そんななか、主人公のアメ車に対するこだわりやSNSの使い方、新聞配達の青年など、脚色部分の巧さが際立つ。フラッシュバックによって次第に明らかになっていく真実やケイト・ブッシュの「This Woman's Work」の使い方などベタすぎるところもあるが、そこは職人監督マーク・フォースターと名優トム・ハンクスによるコラボ。126分、いい仕事っぷりを魅せてくれる。
ヘンクツな老人と隣人一家の交流にほっこり
こういうことがあったらステキだなぁ、ということを魅力的に描いて、ほっこりした気持ちにしてくれる。トム・ハンクスはやっぱり嫌われ者のヘンクツな老人には見えないが、彼が演じるオットーは、作中ですぐに"実はいい人"と分かるので問題ない。この人物の若い頃を演じるのが、ハンクスと妻リタ・ウィルソンの息子、俳優ではなく撮影監督を目指しているというトルーマン・ハンクスで、なるほどトム・ハンクスに似ているような。引越してきた隣人一家は、しっかり者でおせっかいなメキシコ系の妻が素敵なのはもちろん、ぼーっとした夫もいい味。性自認と身体的性が不一致の若人や、ネット系ジャーナリストなど現代的要素も盛り込まれている。
オリジナルにとても忠実。でもまた感動する
原作に忠実なので、当然、スウェーデンのオリジナル映画と基本的に同じ。セリフにも同じものがいくつも。でも、良い話は良い話。展開がわかっていても感動する。「エルヴィス」で悪役を演じたことには反響が分かれたトム・ハンクスだが、オットー役はばっちりのキャスティング。映画の最初のほうでは嫌な奴でも、実は良い人だと観客は知っているので、奇妙に安心できるのだ。若き日のオットーを演じるのは、ハンクスとリタ・ウィルソンの次男(ウィルソンは今作のプロデューサー)。演技は初挑戦ながら、なかなか良い仕事をしている。もっと光るのはメキシコ人女優マリアナ・トレビーニョ。きっと今後彼女はハリウッドでも活躍するはず。