J005311 (2022):映画短評
J005311 (2022)ライター2人の平均評価: 3.5
ミニマムな脚本と演出が言葉にならない感情を浮かび上がらせる
なにか思いつめた様子の平凡な若者が、チンピラ風のやさぐれた若者に頼み込んで、100万円と引き換えに車で「ある場所」へ連れて行ってもらう。ただそれだけの話。主人公がなぜそこへ向かうのか、彼がどんな事情を抱えているのか、最後まで具体的には明かされない。そればかりか、登場人物2人の背景もほとんど説明されず、セリフも最小限に抑えられている。その代わり、手持ちカメラのゲリラ撮影が不穏な空気と緊張感を高め、彼らの内側にある焦りや絶望、諦めなど、様々な言葉にならない感情を浮かび上がらせていく。そこに漂うのは、今を生きる若者の閉塞感。技術的に粗削りかもしれないが、しかし演出のセンスには目を引くものがある。
めちゃくちゃ荒削りだが、えもいわれぬ余韻が残る
主人公の切羽詰まった精神状態が、冒頭カットから伝わる。何か心に秘めた青年が、たまたま目撃した見ず知らずの“ひったくり犯”に高額報酬である場所へ車で連れて行ってもらう。ただそれだけの話だが、ひったくり現場の分かりづらさ、登場人物の極端なアップも多用した不安定なカメラワーク、聞こえづらいセリフ(あえての演出のよう)で、観ながらストレスも溜まっていき、主人公の目的がわかっても驚きは少ない。
それでも2人が行き着いた先、その「絵」がしばらく脳裏から離れない。映画というのは、観てる間の感覚を求めるのではなく、観た後、心に留めておくものとの(おそらく)若き才能の狙いどおり、この余韻は特別な体験になるかも。