サントメール ある被告 (2022):映画短評
サントメール ある被告 (2022)陪審員の視点で裁判を見つめる
アリス・ディオップ監督はドキュメンタリーの出身。初のフィクションであるこの映画も、実際に起きている裁判を記録しているかのように、冷静かつ淡々と展開する。著書のリサーチ目的で傍聴するラマは、この映画の元ネタである現実の裁判を見たディップ監督のアルターエゴ。一方、観客は、陪審員の目線で証言を聞き、情報を繋ぎ合わせていく。無罪を訴えつつも、わが子を置き去りにした時のことを表情も変えずに話す被告の心には、何が起きていたのか。映画はあえてその答を提供せず、観客に委ねる。そんな中では、母、移民、アイデンティティといったテーマが織り込まれていく。抑制のきいた、静かで複雑なドラマ。
この短評にはネタバレを含んでいます