テノール! 人生はハーモニー (2022):映画短評
テノール! 人生はハーモニー (2022)ライター3人の平均評価: 3.3
ロベルト・アラーニャも美味しいプレゼント。
隠れた才能を持つ素人が成功するというありがちな展開だが、ここには階級闘争に関するフランス社会の構造を垣間見ることができる。まずクラシックとポップスの理由なき反目。ヒップホッパーにとってクラシックは上流階級のダサい音楽であり軽蔑の対象なのだ。さらに地区間の争いを暴力ではなくラップバトルで解決しようとするアフリカ・バンバータ式のシステムで、コミューンをまとめようとしているリーダーの存在。片方ではテノールの先生であるマリーは音楽的な柔軟さを持っており、2PACのCDで踊ったりする。彼女はどうやら重病を患っているらしいが、前向きで明るいキャラクターとしてこの作品の陽性さに貢献している。
主演はTonikakuと競ったビートボクサー
「育ちが悪いラッパーがオペラ歌手にスカウト!」という、逆「ピグマリオン」な荒唐無稽なサクセスストーリー。とはいえ、実際のビートボクサー・MB14(「Britain’s Got Talent2023」でTonikakuに敗れる!)を主演に迎え、絢爛豪華なパリ・オペラ座での撮影やテノール歌手(ロベルト・アラーニャ)がゲスト出演という、本物へのこだわりが妙な説得力を持たせる。また、クライマックスの「誰も寝てはならぬ」など、おなじみのプッチーニやヴェルディの名曲が物語を彩るなど、父親譲りの職人気質も感じさせるクロード・ジディJr.監督。『8 Mile』展開もあるが、もうちょいハジけてもよかったかも?
豪奢なパリ・オペラ座とグラフィティの壁が隣り合わせに
黄金色の豪華絢爛なネオ・バロック様式のオペラ座と、コンクリートの壁にグラフィティのあるラップバトルの会場。画面に映し出されるこの二者が、色と形から、視覚という感覚器官を通してまったく異なる文化であることが伝わり、それがすぐ隣り合わせに存在することが体感される。ラッパーの移民青年が、オペラ教師に見出されて異文化に足を踏み入れると、そこに差別があるのは予想通りだが、ラッパー仲間たちから裏切り者とみなされ、自身もそう感じるところがリアル。
主人公の移民青年役は、オーディション番組で準優勝した経歴を持つ、ビートボクサーでラッパーのMB14。ラップだけでなくオペラの歌の数々も本人が歌っている。