ぼくは君たちを憎まないことにした (2023):映画短評
ぼくは君たちを憎まないことにした (2023)憎悪の連鎖はテロリストの思う壺
‘15年に起きたパリ同時多発テロ事件で、最愛の妻を失った男性の実話。幸せな家族の日常を瞬時にして奪われ、幼い息子と2人きりになった主人公は、しかしそれでも「テロリストを憎まない」とSNSで宣言する。なぜなら、憎悪の連鎖はテロリストの思う壺だからだ。「テロに屈しない」とは、一刻も早く平和な日常を取り戻すこと、豊かな人生を前向きに歩むこと、そして子供世代に憎悪を植え付けないこと。しかし、その境地へ達することがいかに困難か!本作は主人公の怒りと悲しみ、苦悩と葛藤を丹念にすくい上げながら、紛争と対立の時代だからこそ感情に流されるなと訴える。地味だが良作。具体的なテロの描写を避けたのも賢明だ。
この短評にはネタバレを含んでいます