イコライザー THE FINAL (2023):映画短評
イコライザー THE FINAL (2023)ライター5人の平均評価: 3.8
シリーズ最終章はまさかのユーロクライム!?
デンゼル・ワシントンが最強にして無敵の必殺仕事人、ロバート・マッコールを演じるシリーズの最終章である。今回の舞台はテロの脅威に揺れる南イタリア。風光明媚で美しい田舎町に暮らす素朴な人々に救われたマッコールは、地元を根城にする凶悪なマフィア組織=カモッラから彼らを守るために立ち上がる。いやあ、これはまさしく’70年代に流行したイタリア産ユーロクライム映画の雰囲気にソックリですな!情無用のハードなバイオレンス描写を含め、ウンベルト・レンツィやセルジオ・マルティーノ辺りの匂いがプンプンとする。ストーリー自体は予定調和だけれども、しかしクライマックスへ向けてのオペラ的なカタルシスには思わずゾクゾク!
ロバート・マッコール、伊太利亜の決斗篇
完結篇の舞台はイタリア! 何ともプログラムピクチャーっぽいシリーズ展開。D・ワシントン最大の当たり役にしてハマリ役、ロバート・マッコールのストイックな怒りの美学から、任侠映画との類似をよく指摘されるが、その味を濃厚に活かすべくマフィア映画の世界に飛び込んだ感触。
一作目のミニマルアクション、二作目のやや荒唐無稽に歌舞く方向から、今回は暴力に憑かれたマッコールの宿業や内省が際立つ。それは9.11以降の米国の揺らぎと重なる。主題は正義の鉄槌を下すのではなく、負の連鎖を終わらせる事。そしてT・スコットの『マイ・ボディガード』(04年)以来となる19年ぶりのデンゼル&D・ファニング共演に感涙!
時代劇的な空気が濃い最終章
人気シリーズ最新作にして本作で完結篇とのこと。言われるまで気が付きませんでしたが、名優デンゼル・ワシントンが同じキャラクターを演じ続けているのはこのシリーズだけだったんですね。アントワーン・フークアー監督との相性の良さを感じさせるエピソードです。余計なものを徹底的にそぎ落とした結果、シリーズの中で一番短い上演時間になっていて、非常にタイトで見せ場の連続というアクション映画のお手本のような一本となりました。ダコタ・ファニングとの並びはちょっと感慨深いですね。傷つき辿り着いた地での最後の大暴れはまるで時代劇のようです。
街が変わる、イコライザーが変わる
シリーズ3作品を並べると、このシリーズが"街"の映画でもあったことが見えてくる。第1作はボストンの夜の街。第2作はボストンの昼と、それと対比的に冷たく凍てつくベルギーのブリュッセル。そしてこの第3作は、まばゆい光に満ち、狭い坂道が密集する南イタリアの小さな街。街の感触が変化していくさまは、主人公マッコールの心境の変化と同期している。しかし、そのイタリアでも主人公はイコライザーにならねばならない時があり、すると夜の石畳は濡れて反射光が強くなり、そこにいつものイコライザーの世界が立ち現れる。前2作ではラストは一人で海を見つめていた主人公が、今回は最後に何を見るのか、見届けずにはいられない。
せわしないアクション映画が増えるなか、このどっしり感は貴重
デンゼルの当たり役となった必殺仕事人も、前2作以上に“静”の部分が強調され、その分、要所でのアクションは瞬発力とスピードが極まった感。そのメリハリが映画に重厚さを与えている。何かと詰め込みすぎな作品が目立つこの時代、むしろ新鮮。残酷なバイオレンスもあくまでもスパイス的で、このあたりフークア監督の“踏み外さない”センスに感心。
主人公マッコールが余生を楽しもうとする日常も、思いのほかホッコリと描かれ、だからこそ観る側が共感しやすい流れになっていく。
そして本作の肝は、深い感動をもたらす、ある演出。次世代へ思いを託すマッコールの強い信念が、さりげない一瞬で伝わり、激しく胸を揺さぶられた。