シチリア・サマー (2022):映画短評
シチリア・サマー (2022)ライター2人の平均評価: 4
ウンベルト・ビンディの名曲が流れるシーンを観よ
ジョルジョとニーノ、と名付けられた青年ふたりの淡い恋。史実(=ジャッレ事件)からインスピレーションを得ているので、結末はすでに多くに知られている。だが、脚本と初監督を手がけたジュゼッペ・フィオレッロは臆さずに彼らの生の軌跡と、取り巻いていた社会の不寛容を独自に再現し、われらに差し出す(ラミロ・シビータの撮影が素晴らしい!)。
高揚したジャンニが部屋で母親の手を取り、突然踊りだす印象的な場面で流れるのは、60年代イタリアを代表する歌手、そしてゲイであったことで不当に傷つけられたウンベルト・ビンディの名曲「IL MIO MONDO」(邦題「私の世界」)。これが(その歌詞も相まって)とても切ない。
『モーリス』経由の『君の名前~』に対し本作はネオレアリズモ系
伊の80年代を舞台にしたボーイ・ミーツ・ボーイ。露骨に『君の名前で僕を呼んで』のフォロワー系に見られるだろうが、近い題材だからこそむしろ差異が際立つ。『君の名前~』がアッパーミドルの階層を描くのに対し、こちらは下層。基本はネオレアリズモの系譜を受け継ぐもので、特に『揺れる大地』や『若者のすべて』など初期ヴィスコンティを彷彿させる骨太の手触りだ。
1980年に起こった実際の事件がベースだが、物語の設定を82年に変えたのは、やはりFIFAワールドカップの記憶に合わせてきたか。監督は『シチリア!シチリア!』等の俳優として知られるG・フィオレッロ(69年生)。人間のゴツッとした生っぽさが魅力の秀作。