コヴェナント/約束の救出 (2022):映画短評
コヴェナント/約束の救出 (2022)ライター5人の平均評価: 4.2
エモさを醸す“恩義”の重さ
アフガンに赴いた米国軍人と現地通訳のサバイバルというと『カンダハル 突破せよ』が記憶に新しいが、本作の視点は異なる。というのも、両者が友情や共感で結ばれていないのだ。
軍人が絶望的な状況で通訳に命を救われたことから恩義が生まれ、それを返す番がやってくる。この“恩義”という感情が本作のテーマ。借りを返さないと、まっすぐに生きていけない、そんなこだわりが物語を熱くする。
G・リッチー監督らしいドライなタッチはあるものの、主人公の感情はきっちりとらえている。友情を描かずとも、エモいドラマとなっている妙。社会的なメッセージを含めて、リッチーの新境地と言えよう。
アクション演出は秀逸。アメリカ批判と礼賛の複雑な境
得意の痛快さ、ユーモアを封印したガイ・リッチー監督だが、その分、自慢のアクション演出は全開に冴えわたる。要所でじっくり時間をかけて描かれるチェイスおよび銃撃戦は、そのアングルや編集の巧みさで臨場感と迫力が半端ではない。シンプルに戦争アクション映画として秀逸。
ドラマの肝は、アフガニスタンの現地通訳アーメッドが損得勘定を忘れ、人間的精神で雇い主のアメリカ曹長キンリーの命を守り続ける流れ。ここに心が揺さぶられない人はいないだろう。
アメリカ政府に対する批判的メッセージが込められたのは評価できるが、いくら敵とはいえ、タリバンの兵士たちが次々と虫ケラのように殺されていく描写には違和感が残ったのも事実。
スリル満点、感動もさせて問題提起もする傑作
どんな映画でも言えることではあるが、今作はとりわけ、何の予備知識もなしに見ることをおすすめ。予想がつかない展開にはらはらドキドキさせられ、半分まできたところでストーリーはさらに思いもかけないほうに向かうのだ。戦争映画は数あれど、アフガニスタンで米軍の通訳を務める現地の人という、これまで見過ごされていた部分に焦点を当てるのも興味深く、意義深い。そこには問題提起もあるし、何よりも人間ドラマとして大きく感動させる。いつもとまるで違った直球のアプローチながら、戦闘シーンがスリルと迫力満点なのは、さすがにガイ・リッチー。「良い映画を見た」という満足を与えてくれる傑作。
ガイ・リッチーが描く、戦場の「走れメロス」
いつものケレン味もなければ、クールさも笑いもない。史実に基づく話なので、ドンデン返しもない。あのガイ・リッチーが、ここまで泣ける人間&友情ドラマを撮れたことがサプライズ! 鼻につくほど、いい話にまとめているのだが、アメリカ軍撤退後のアフガン現地通訳の現状をしっかり描いている点ではポイント高し。闇の部分もしっかり魅せるジェイク・ギレンホールとダール・サリムの視点が変わる展開も、ポール・グリーングラス監督作ばりにリアルなミリタリー・アクションとしても見応えアリ。『カンダハル 突破せよ』と観比べるのも一興だが、「走れメロス」好きな日本人にしっかり届いてほしい一作である。
感動実話の裏にもメッセージがある
ガイ・リッチー監督の"戦争映画を撮りたい"という動機から生まれ実話を元に描かれた本作は、物語の中心に"戦闘"ではなく”恩を返す"という行為を据える。しかもそれは兵士同士ではなく、国外から来た兵士と現地の通訳の間で生じる。アフガニスタン人通訳に命を救われた米兵が、帰国後もその恩義を忘れず、再び現地に戻って彼の命を救う物語。その過程に、他国で行われる戦闘の難しさ、現地で雇った兵士に裏切られる状況の過酷さ、敵の領土を偽装して通過する際の緊迫感などアクション・サスペンスの魅力をたっぷり盛り込み、恩義の物語で感動させつつ、逆説的に、本作とは別の事態に終わったことが多かっただろう現実に思いを馳せさせる。