12日の殺人 (2022):映画短評
12日の殺人 (2022)ライター3人の平均評価: 3.7
「何」が彼女を殺したのか?
『落下の解剖学』の前年(2023年)にセザール賞を席巻したミステリーの名手、ドミニク・モル監督の秀逸なスリラー映画。『殺人の追憶』や『ゾディアック』の系譜に並ぶ未解決事件ものであり、謎解きではなく、まさにサスペンスの語義である「宙吊り」(未決定の状態)の純度や強度を追求した語りが興味深い。そこにフェミサイドの主題を盛り込み、現代社会のザラついた感触を伝える逸品になっている。
事件被害者、21歳の女性クララをめぐる複雑な人間模様が明らかになっていく展開の中で男性優位の問題がせり上がる。実録タッチを補強するリアルな描写力が流石だ。音楽のオリヴィエ・マリゲリによる「1983年の曲」など芸が細かい!
被害者は女性、そのとき男性たちは?
未解決の殺人事件を描いてはいるが、謎解きの要素は皆無といってよい。本作がスポットを当てるのは、捜査に当たる人間の心理状態だ。
主人公の刑事の、袋小路を堂々巡りするような閉塞的心情に肉迫し、それが緊張感として機能するつくり。モル監督が『ゾディアック』が好きと公言するのも納得がいく。
面白いのは男社会に対する視点。被害者が魅力的な若い女性であるのに対し、容疑者はすべて男性。コミュニケーション下手な主人公は、女性に対する聞き込みも冷たいものを感じさせる。そして捜査する側はほとんどが男性。映画の後半で新米の女性刑事が主人公に語る、ある言葉をぜひ噛みしめて欲しい。
事件ではなく、周囲の人々の姿を描き出す
映画はある殺人事件を捜査する一人の刑事を追うが、物語の焦点は、次第に、殺人事件の真相の解明から少しずつずれていき、主人公が捜査の過程で出会う参考人や容疑者たち、彼と同じ組織で働く同僚たち、それぞれの暮らしと思いが、静かに慎重に描き出されていく。その物語が描く奇妙なカーブが、不思議に心地よい。
主人公が、事件にのめり込んでいきながら、仕事との関係を模索していくお仕事映画でもあり、離れられないものとどう折り合っていくかを描く依存症の物語でもある。
監督は、殺人事件をモチーフに人間群像を描いた『悪なき殺人』のドミニク・モル。今回も人間のさまざまな顔を静かに映し出す。