DOGMAN ドッグマン (2023):映画短評
DOGMAN ドッグマン (2023)ライター5人の平均評価: 3.8
わんこ好きにはたまらない、ベッソン版『ジョーカー』
女殺し屋路線とトンデモ大作路線を行ったり来たりで 過去のカリスマ性は皆無なリュック・ベッソン最新作は、取り調べ中の主人公のフラッシュバックで綴られる“ベッソン版『ジョーカー』”。虐待続く毒親からの逃亡に始まり、『ドーベルマン・ギャング』なアクションから『ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲』なカタルシスまで、わんこエンタメ要素がたっぷり。ダークヒーロー誕生物語ながら、ステージ上でピアフやモンローになりきることで自己を解放していくなど、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズが“ベッソン映画のヒロイン”としての役割も果たし、彼の魅力を最大限に引き出された一作になっていることに、★おまけ。
安易なジャンル分けを許さないリュック・ベッソンの怪作!
幼少期より親兄弟から虐待されて下半身不随となり、邪まで卑怯な人間よりも純粋で勇敢な犬と心の通じ合う若者が、表向きはナイトクラブのドラァグ・クィーンとして、その裏で保護犬軍団を率いる謎の男ドッグマンとして、このクソみたいな世の中を正すために窃盗や殺人などの犯罪を重ねる。リュック・ベッソン作品としては、恐らく『LUCY/ルーシー』以来の怪作。ジャンル分け困難だが、あえて例えるなら『ジョーカー』×『101匹わんちゃん』といったところか。女装でピアフやディートリヒのモノマネをするケイレブ・ランドリー・ジョーンズも強烈!なんと、『ベニスに死す』や『バリー・リンドン』のマリサ・ベレンソンまで登場する。
神なき時代の狂暴な寓話
L・ベッソン作品の中でもとりわけ寓話性が強く、物語として面白いのは、回想形式で語られるからか。犬を操る主人公と精神科医の対話を通して、ドッグマンのドラマが紡がれる。
『ジャンヌ・ダルク』にも通じる、信仰と苦難というテーマ。“私は神を信じてるけど、神は私を信じてるの?”という主人公の言葉にドラマの重みがにじむ。
メイク姿が多いせいか最初は誰かわからなかったC・L・ジョーンズの熱演も見どころだが、たくさんの犬たちの“好演”にも目を見張るものが。主人公の“家族”になったと思えば、愛嬌のあるペット、さらには人間を襲う恐怖の対象にもなる。ドッグトレーナーの仕事に敬服。
犬だけが親友の青年のクライム・アクションに異色の味付け
幼少時から父と兄に虐待され、檻の中で犬たちと一緒に成長した主人公が、犬たちだけを仲間に生きる話だが、シリアスではなく、犯罪ありアクションありの娯楽映画仕様。
主演は、ジャスティン・カーゼル監督が無差別銃乱射事件を描く『ニトラム/NITRAM』の主人公役も印象的だったケイレブ・ランドリー・ジョーンズ。本作のリュック・ベッソン監督がドラキュラを描く次回作への主演も決定。本作のドラァグクイーンのステージで自分でないものに変身する快楽を知った主人公が、エディット・ピアフやマレーネ・ディートリッヒ、マリリン・モンローそっくりの扮装で、彼女たちの名曲を口パクで歌う姿はビザールな魅力たっぷり。
犬たちの信じがたい活躍&能力に驚くだけで一見の価値アリ
このところ、監督としては当たりハズレの振れ幅が大きかった(とくに後者が目立った)リュック・ベッソンが起死回生。主人公の登場シーンからして、過激な展開への期待を大いに煽ってくるのだが、その期待を軽々と上回るのは、犬たちの天才的かつ健気な行動の賜物(たまもの)。主人公の心を読み、どんな指示も完璧にこなすワンコ集団の連携プレーに、ひたすら感動の嵐である。
ギャングとの闘いの構図や警察とのドラマに特に新鮮味はないが、主人公の純愛ストーリーは映画の中で絶妙なスパイス。孤独感+育まれる狂気+人生への切なさ。このすべてを体現するうえで、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズは現代最高の俳優だと本作は証明する。