ナイトスイム (2024):映画短評
ナイトスイム (2024)ライター5人の平均評価: 3
『ポルターガイスト』を連想させるオーソドックスな心霊ホラー
理想のマイホームを手に入れたプロ野球選手の家族。ところが、そこは庭のプールに邪悪な「何か」が棲みついているワケアリ物件だった…!という心霊ホラー。向こう側に連れ去られた我が子を母親が取り戻すという展開を含め、トビー・フーパー監督の『ポルターガイスト』を連想するホラー映画ファンは多いだろう。父親が悪霊に魂を少しずつ侵食されていくあたりは『悪魔の棲む家』を彷彿とさせる。そういう意味で懐かしさを禁じ得ないオーソドックスな作品。ショック描写も全体的にマイルドでソフトですな。なので、水恐怖症や海洋恐怖症でもない限り、ハードコアなホラー・マニアはちょっと物足りなく感じるかもしれない。
"水"の怖さを生かした怪談
“水”を恐怖の対象としている点では、同じJ・ワン製作の『ラ・ヨローナ 泣く女』を思い起こさせるが、こちらはより怪談色が濃厚。
プールの底に“何か”がいる……という設定は、足の届かない深さの底はもちろん、排水溝にも警戒心を抱かせる。これだけで泳ぎが得意ではない筆者には怖いが、加えて主人公の異変が『シャイニング』的な緊張を高める巧妙なつくり。
夜の水面のとらえ方や水中撮影など、緩急をつけた描写も光る。俊英B・マグワイア監督は『ポルターガイスト』のような一家の受難劇に発想を得たとのこと。描写にもホラーセンスの良さがうかがえる。
ホラーの最強打者も毎回ヒットは打てないということ
実質3分強だった同名の短編の監督コンビが長編映画化の権利をジェームズ・ワンに売り、コンビのひとりブライス・マクガイアが監督。だが、90分に伸びるとなぜ怖い現象が起きるのか説明が必要になり、そこに新鮮さがないため、呪われた家をプールに変えただけのような、ありきたりなホラーになってしまった。ラストも、作り手は意外さを狙ったのだったのだろうが、いくらこのジャンルとはいえそこまでの話に信ぴょう性がなさすぎて、唐突。ワイアット・ラッセルのキャラクターが元MLB選手という設定なのであえて例えるなら、ジェイソン・ブラムとワンのような最強打者でも毎回ヒットを打つのは難しいのだという事実を再認識した。
いかにもジェームズ・ワン制作の“呪われたプール”
今や『ソウ』ではなく、『死霊館』『アクアマン』でおなじみのジェームズ・ワン制作として分かりやすい“呪われた+プール”。排水溝だけで怖いのに、プロ野球選手が患った難病が治癒していくミステリー展開に加え、フラットではないプールの構造の使った面白さ。そして、「モナーク:レガシー・オブ・モンスターズ」だけでなく、ジョン・カーペンター監督作でも父親(カート・ラッセル)と共演してほしいワイアット・ラッセルが演じるアメリカの理想の父親像。近年のブラムハウス作品にしては、そこまで奇をてらっていない家族ドラマといえる王道な作りゆえに、どこか好感度高し。
夜、暗い水は、得体の知れないものになる
夜、暗い水に満ちた川や湖を見ると、なんだか落ち着かない気がするのは、水中では生きられない全人類共通の原初的恐怖から生じる感覚なのではないか。この物語の根底には、そんな誰もが思い当たる漠然とした恐怖がある。さらに学校や公共施設のプールが近所にあるなら、この感覚がより身近に感じられるのではないだろうか。
そこに父と息子の心理ドラマをプラス。幼い息子が自分が願うような存在にならないのではないかと、無意識のうちに失望する父親と、それをどこかで感じ取っている繊細な息子が、それぞれ怪異に遭遇する。まったくの善人でも悪人でもない普通の男である父親役に、ワイアット・ラッセルがよく似合う。