オークション ~盗まれたエゴン・シーレ (2023):映画短評
オークション ~盗まれたエゴン・シーレ (2023)ライター2人の平均評価: 4
アート・ビジネスの赤裸々な裏側は社会の縮図そのもの?
フランスの田舎の一軒家で埃をかぶった古い風景画が、実は戦時中にナチスがユダヤ人から奪ったエゴン・シーレの名画「ひまわり」だった…という実話をもとに、果たしてこれは本物なのか、だとすればどれほどの価値があるのか、正当な所有権は誰にあるのか、どうすればより高い値段で売り捌けるのかなど、関係者それぞれの思惑が交錯していく美術品ミステリー。金と欲望の渦巻くアート・ビジネス界の赤裸々な裏側を描きつつ、その力関係をいわば社会の縮図として捉えている点が興味深いところ。『美しき諍い女』などジャック・リヴェット作品に欠かせない名脚本家パスカル・ボニゼールの軽妙洒脱な演出がまた心地良い。
芸術と金融、価値の衝突の中で
カイエ批評家出身にして名脚本家、パスカル・ボニゼール監督の快作。彼は『これが私の人生』のソフィー・フィリエール監督(23年逝去)のパートナーだった人。奇しくも12月のカンヌ監督週間特集において実子2人が来日した後の日本公開となる。
『ある画家の数奇な運命』は1937年のナチスによる退廃芸術展から始まるが、その延長で行方不明となっていたエゴン・シーレの「ひまわり」の内の一作を巡る騒動。絵画オークションという題材は珍しくないが、曲者だらけの人間模様を織り成す特異にして軽妙かつ良質のミステリー調に仕上げた。社会階層の交差を描く中、キーパーソンとなる青年マルタンの清涼感が抜群の余韻をもたしてくれる。