ルイの9番目の人生 (2015):映画短評
ルイの9番目の人生 (2015)ライター5人の平均評価: 3.2
トラウマを克服する精神医学ミステリー×心霊ダークファンタジー
悪いジョークのように、生死を彷徨う悲劇が相次いだ少年の9年間。昏睡状態にある彼の身に起きたことは、単なる不運なのか、それとも何者かの仕業か。真実を探る監督の手捌きは決して鮮やかとは言えないが、精神医学ミステリーや心霊ダークファンタジーを織り交ぜてサスペンスを醸成するサービス精神が、好感を抱かせる。いたいけな少年がトラウマを乗り越えるべく、必死にメッセージを発する物語。事の真相にたどり着くとき、まんまとミスリードされていたことに快感さえ抱く。少年がメッセージを受け取る『怪物はささやく』に足りなかったカタルシスは十分だ。母親役の女優サラ・ガドンが、いつになく魅力的な映画としても記憶されるだろう。
鬼才アレクサンドル・アジャが描くシュールな愛情物語
フランス発ニューウェーブ・ホラーの旗手だったアレクサンドル・アジャの最新作は、前作『ホーンズ』で打ち出したシュールなダーク・ファンタジー路線を継承する異色ミステリーだ。
崖からの転落事故で昏睡状態に陥った少年ルイ。崖の上で何が起きたのか、なぜ彼は毎年大きな事故に遭っているのか。そんな数奇な運命の謎を、ルイ少年本人の意識を自在に具現化した精神世界と、その回復を見守る人々の現実世界の双方から紐解く。
浮かび上がるのは、本能的に他者との絆や愛情を求める人間の哀切。荒唐無稽な非日常を介して普遍的な日常を語るのはティム・バートン的でもある。ただ、ご都合主義にも思える終盤の展開は賛否あることだろう。
子どもは周囲の人の気持ちにとても敏感なんですね
毎年1度は死にかけると語る少年ルイのモノローグを受けて母親に素人診断を下してしまうが、単純な毒母の物語で終わらないのが本作の魅力だ。昏睡状態の少年を軸に彼の両親の関係が徐々に明らかになり、殺人未遂事件の真相に迫る一種の謎解きだが、根底にあるのはルイの心の痛み。幼いながらも周囲の人々の気持ちを敏感に察し、必死にサバイバルするルイの心境はいかばかりか。切羽詰まったルイの選択は現実離れしているかもしれないが、「こういうことあるかも」と思わせる。ルイ役で物語を引っ張るのは、ちょっとヒネた感じもあるA・ロングワース。酸いも甘いも噛み締めたというか、子どもながらの達観が伝わる快演だ。
衝撃のラストを受け入れられるか?
アレクサンドル・アジャ監督案件だが、出血量よりファンタジー要素強め。とはいえ、ベッドで眠り続ける主人公の謎を解く展開は、サスペンス・ミステリー仕立て。しかも、いきなり『怪物はささやく』な展開になったかと思えば、アーロン・ポールは決して裏切らない芝居を魅せるし、サラ・ガドンの妖艶な魅力は、クローネンバーグ監督作での低温な空気感を醸し出す。そんなアジャの演出、『ハイテンション』からのコンビであるマキシム・アレクサンドルの撮影は決して悪くないが、本作の評価は衝撃のラストを受け入れられるか否かで大きく変わるだろう。ただ、主人公を演じたエイダン・ロングワースは今後ブレイクしそうな予感。
昏睡状態の少年の夢想が心地よい
監督は、独自の派手で奇抜なVFX映像が魅力的な「ヒルズ・ハブ・アイズ」「ホーンズ 容疑者と告白の角」のアレクサンドル・アジャ。今回は謎解きミステリーだが、その映像の魅力は健在。昏睡状態の少年の見ている夢想や、まるでその夢想の影響を受けたかのような彼の担当医師の見る夢が、この監督らしいビジュアルで描かれて、見る者を魅了する。
中でも昏睡状態の少年が抱く、自分が深海をゆっくり漂っているというイメージが幻想的。その状態にある時の静謐さ、肌触りの柔らかさ、身体が丸ごと水に包まれて守られている感覚が画面から伝わってきて、その映像を見ていると、こちらも昏睡状態から覚めたくなくなる。