バッド・ジーニアス 危険な天才たち (2017):映画短評
バッド・ジーニアス 危険な天才たち (2017)ライター5人の平均評価: 4.6
格差と学歴にもがく十代の現実と、サスペンスに酔う
カンニングを題材にした映画というと80年代脳の筆者は『ザ・カンニング IQ=0』のようなお笑い映画を連想するが、こちらはグっとシリアス。
格差社会の中で過熱するアジアの受験戦争を背景にしたドラマは実話をヒントにしたことからも明らかだが、高校生たちの切羽詰まった空気をリアルに伝える。彼らが織りなすカンニング作戦の描写もスリリングで、エンタテインメント性も十分だ。
とりわけ目を引くのが、試験会場から地下鉄へと逃げ込むヒロインと、試験官とのチェイスのシークエンス。ヒッチコックからハリウッド映画に継がれたサスペンス演出の妙が、タイ映画へも受け継がれていたことに嬉しくなる。
37歳の鋭利な映像センスが生んだ、危うい青春サスペンスの傑作
コメディネタ止まりだった「カンニング」をめぐって、危うい青春サスペンスの傑作が誕生。中国で起きた事件をモチーフとする極めて鋭利なタイ映画だ。質素な家庭の天才女子高生が、学力の低いボンボンから“不正ビジネス”をもちかけられて始まる、作戦に次ぐ作戦。脚本とキャラクター造形は練りに練られている。細かいカッティング、クローズアップ、スローモーション、スピーディーな編集…タッチはスパイアクションさながら。学歴・格差社会の現実を背景にヒロインの心は揺れ動き、社会派エンタメの様相さえ呈する。この映像センスとダイナミズム、1981年生まれのナタウット・プーンピリヤ監督が世界を股にかけて活躍する日は遠くない。
貧富の差を学力で覆すって、言うのは簡単だけど…
厳しい受験戦争を勝ち抜けば幸せを掴めるという神話じみたアジアの学歴社会に一石を投じる、苦い青春ドラマだ。勉強嫌いの同級生に頼まれた天才少女リンが次々と驚異のカンニング・テクを駆使し、バイト料もゲット。こう書くと『ザ・カンニング【IQ=0】風だが、全然違う。本作が描くのは、蔓延するスクール・カーストや脱貧困を目指す少年の葛藤、特権に甘んじる富裕層キッズの傲慢だ。舞台はタイの高校だが、世界中のティーンが共感するに違いない。実際に起きた不正入試事件を元に、関わった若者たちの心情や状況を深く洞察した監督の想像力の勝利だ。リン役のチュティモンちゃんは演技がうまく、女優デビューとは思えない存在感が光る。
これを観ずして、2018年ベストテンは決められない!!
定番の消しゴムから始まり、『ザ・カンニング[IQ=0]』のボンゴを超えるピアノ・コード、果ては時差と記憶力を使った大計画に至るまで、次々飛び出すカンニング・テク。とはいえ、タイの俊英監督が目指したのは、『カンバセーション…盗聴…』『コンドル』など、1970年代のスパイ・アクション。そのため、華麗かつ大胆に、そのテクを魅せたかと思えば、容赦なく追い詰めていく。そんなジェットコースター演出に、淡い初恋アリ、スクールカースト逆転劇アリな青春映画としての醍醐味が融合。“高校生版『オーシャンズ11』”どころじゃないヤバすぎる極上のエンタメを、その目で確かめよ!
今年公開の映画の中で最上位レヴェルにバッドアス(面白い)!!
懐かしの『ザ・カンニング[IQ=0]』ノリでユルく楽しめるのかと思いきや、めっちゃ辛口で痛切な風刺劇。同時に娯楽術が高機能にドライヴする第一級のクライムムービーであり、貧富の格差が染みるピカレスクロマン。それを学園映画でやってしまい、裏に鋭利な社会批評が貼り付いている、どう考えても完璧な一本!
「学歴はカネで買えるのか?」という大枠は、幼児期から競争が始まり経済力で階層が固定しつつあると言われる日本でもリアル。金持ちのバカ息子&娘には普通にムカつくが、堅物の優等生が社会という苛烈なルールが敷かれるステージに踏み出す通過儀礼とも取れる。「いまのアジア」を活写した大傑作。ヒロインの目力も絶妙!