天気の子 (2019):映画短評
天気の子 (2019)ライター4人の平均評価: 4
新海誠監督の帰還
新海誠監督が監督の世界観に還ってきた。これが第一印象です。『君の名は。』がいかに一般層に向けて歩み寄っていたかがよくわかりました。
新海監督が国民的映画となった『君の名は。』の次の映画で自分の世界観に戻るという決断を下したことに何より拍手をおくりたいと思います。こんな条件下で作品に挑んでいたのは宮崎駿監督ぐらいしかいなかったなかで、新たな境地に至ってもなお、賛否を呼ぶ映画を出してきた新海誠監督。気が早いですが次の映画が楽しみです。
この少年の選択こそ、世界を壊してきた私達自身の行いではないか
結末がハッピー/バッドのいずれにも取れるのは、多様な視点が鏤められているからだ。君と僕のセカイが有機的に世界に結びつく作劇に、進化を見る。酷薄な街で性風俗に堕ちる少女を救う滑り出しは凡庸だが、魔法で生計を立て社会と切り結ぶ、アニメビジネスのメタ構造には毒がある。長いスパンで自然や都市を捉え、文明の宿命を語る挿話もぬかりない。打算的な社会で生き抜くには、世界のバランスなど知ったことかという境地は、むしろ現代人の本音ではないか。狂った天気が恒常化した現実に怯える我々の実感を踏まえ、ネット上の正義を挑発したともいえるスタンスは頼もしい。愛の発露が先走り感傷的すぎた前作より、遥かに深みが生まれた。
代々木会館でつかまえて
バニラの宣伝トラックや富士そば店内といったミニマムな描写から、人身御供の展開や東京大パニックと化す大風呂敷の広げ方まで、これぞ新海誠イズム! しかも、『秒速5センチメートル』から12年を経て、さらに“世界は狂っている”こともあり、「大丈夫」のワードがさらに切実に聞こえてくる。サラリと観客に投げるラストはどこかモノ足りなさもあるが、相変わらず高いRADWIMPSの楽曲とのシンクロ率や、“あの2人”を登場させるサプライズなどもあり、かなりの満腹感。ただ、「傷天」でおなじみ、解体直前の代々木会館など、新宿周辺の聖地巡礼に関しては、かなりの「クレイジージャーニー」と化すだろう。
溢れまくる聖地、導かれる少年、そしてアニメらしく攻める展開
1974年のドラマ「傷だらけの天使」で萩原健一が住んでいた代々木会館ビルが時を超えて登場するなど、信じがたい数の東京の実景が、時に一瞬、一瞬のカットで精緻に描かれ、その贅沢な作りに圧倒される。雨、新宿、年上らしき女性に導かれる運命と、新海監督のあの作品が何度かシンクロし、そこから別方向へのシフトはスムーズ。『君の名は。』の世界はもしかしたら実写でも成功したかもしれないが、今作は重要パートが実写では興ざめする危険もはらみ、その意味で、アニメだからこそ味わえる描写に挑んだ野心が際立つ。ゆえに展開には賛否があるだろうが、音楽による盛り上がりも『君の名は。』以上に感じられ、期待を裏切られることはない。