スペシャルズ! ~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~ (2019):映画短評
スペシャルズ! ~政府が潰そうとした自閉症ケア施設を守った男たちの実話~ (2019)ライター5人の平均評価: 4
公的機関に見捨てられた子供たちを救う人々の愛と信念に感動
どんな子供でも絶対に見捨てないことをモットーに、公的機関から拒絶された重度の自閉症患者の子供ばかりを受け入れるフランスの民間団体の活動を、まるで密着ドキュメントさながらのリアリズムで描く。経営は赤字で人材も物資も不足する中、医療機関やレストランなど理解ある協力者を得て、文字通り身を粉にして患者のために働く人々。社会に居場所のない貧困層の若者たちを、スタッフとして育てるという試みも素晴らしい。その一方で、未認可だからという理由だけで施設を潰そうとする政府の役人には腹が立つ。一番面倒な問題の解決を民間に押し付けながら、法律を盾に権威を振りかざす。日本の役所も全く同じですな。
見終わった人はきっと、優しい気持ちになるはず
損得抜きに、優しさと思いやり優先で自閉症者ケアに尽力する人々に心動かされる作品だ。システム優先で頭の固い行政とフットワークの軽いNGO団体の対比もわかりやすく、政治家は国の国幹を成す庶民にもっと寄り添ってほしいと思いたくなる。すばらしいと思ったのは、自閉症の実態をしっかりと見せたこと。映画やドラマでは天才的能力を発揮するように描かれることが多いが、そういう人は本当にごく一部。なかなか理解されない障害なのだ。自閉症者の起用にはデリケートな気配りが必要だったろうと頭が下がる思いだ。主人公をエネルギッシュに演じたV・カッセル&R・カテブが物語をしっかり引きしめている。副題は長すぎ!?
シビアな社会問題をエンタメで観せる、映画監督のセンスと心意気
困ってる人がいたら受け入れる。社会のルールに関係なく、モラルとして正しければ、やり通す。ひたむきに奉仕の精神で活動を続ける主人公の、熱すぎる行動力に最後まで圧倒され、頭が下がる思い。驚くのは主人公と仲間たちの発想力。自閉症の子供たちを、社会からドロップアウトした青少年が面倒をみることで、結果、両者ウィンウィンの成長を期待……と、やや理想が高いが、うまくいかない実情もドラマチックに取り込み、結果、映画的な盛り上がりも巧妙だ。『最強のふたり』と同じく、この監督コンビ、社会派テーマをエンタメ的作劇で共感させるテクをフル稼動。おなじみのダンスシーンも、人と人の距離を縮める効果があり、観ていて幸せ気分。
必要なものをていねいに映し出す
他に受け入れてくれるところのない自閉症の子供たちをケアしている施設が、政府に潰されそうになり、さあ、どうする!?というストーリーを、ハラハラドキドキのサスペンス仕立てでは描かないところが見事。ではどう描くのかといと、その施設でのごく普通の毎日のありようーーさまざまな子供たち、その世話をする人々、そしてここ以外に行く場所のない若者たちの日々の行為が、淡々と丁寧に映し出されていくのだ。それを見ているだけで、誰かが何かを主張しなくても、この場所がかけがえのない場所であり、無くしてはならない場所だということが伝わってくる。こういうモチーフを描きながら、エンディングはどこまでも爽やかだ。
『最強のふたり』よりさらに挑戦的に
『最強のふたり』は格差や人種を超えた友情が話題となったが、仏の失業保険制度の盲点を突いた切り口に監督たちの才気を感じた。本作も視線がいい。法や制度からはみ出てしまった人たちに光を当て、見て見ぬ振りをしている我々に人としてどう行動すべきかを考えさせる。Docにする選択もあったと思うが自閉症者を起用して劇映画にしたことに前作のヒットに甘んじない姿勢に野心作を感じた。その彼らの試みに反して、安全策をとった副題は頂けないが。タイトルにはJ.Y.パークのいう「一人一人が特別でなかったら生まれてこなかった」の意味もあるだろう。観賞後、そこに込められた監督たちの思いを考えずにはいられない奥深き作品である。