ゴールドフィンガー　巨大金融詐欺事件 (2023)：映画短評

　「アジア四小龍」のひとつとして飛躍的な経済成長を遂げた‘80年代の香港を舞台に、数々の裏工作を駆使して無一文から億万長者へと成り上がったビジネスマンと、そんな彼の不正を暴かんと執念を燃やす捜査官の攻防戦を描く。実際の金融詐欺事件を下敷きにした実録犯罪ドラマ。金と欲と陰謀の渦巻く狂乱のサクセス・ストーリーをユーモラスに描く前半は『ウルフ・オブ・ウォールストリート』の如しだが、愛すべき悪党のように見えた主人公の恐るべき本性が明るみとなるにつれ、映画は冷徹な暴力性と重苦しい悲壮感を帯びていく。さながら香港ドリームの光と影。フェリックス・チョン監督の技巧を凝らしたスリリングな演出に思わず息をのむ。

香港史上最大級の金融犯罪「キャリアン事件」を『インファナル・アフェア』のキャスト＆スタッフで映画化。ジャンル的には金融サスペンスだが、ノワール色が強い『インファナル』に比べ、異国の地で逞しく生きる男のサクセスストーリー色が強く、別モノとして観るのがベター。コメディ以外では観たことのないトニー・レオンの弾けた芝居はさすがで、極悪人なのに、どこか憎めなくなってしまうほど。彼を執拗に追うアンディ・ラウ演じる捜査官の家庭のエピソードも巧く絡めて、対照的な構成になっている。時代背景が重なる『トワイライト・ウォリアーズ　決戦！九龍城砦』と併せて観るのも一興だ。