47RONIN (2013):映画短評
47RONIN (2013)ライター4人の平均評価: 2.8
角川映画的な無国籍時代劇ファンタジー
「忠臣蔵」の映画化というより、赤穂浪士の討ち入りをネタにした無国籍時代劇ファンタジーである。ノリとしては深作版「里見八犬伝」といったところだろうか。鎧兜は中国もどきも混じっているし、柴咲コウ扮するお姫様の着物はヨーロッパ+韓流。なんというか、豪華な具材ばかりを使ったごった煮鍋といった感じだ。
しかしながら、物語の中核をなす武士道精神は意外にも本格派。切腹シーンなどを見ていても、作り手が必ずしも不勉強なわけではないように思える。あえて狙った荒唐無稽と言うべきか。キアヌが異端の混血児という設定にも違和感はなく、純粋な時代劇の魅力さえ求めなければ、これはこれで普通に楽しめる特撮娯楽映画だ。個人的には久しぶりに文句なくカッコいい真田広之を見られたことも嬉しい。それもやはり、往年の角川映画的エッセンスのおかげ…(笑)?
こんな世界観なのに、マジメに「忠臣蔵」描いてみました
ワーナーの『ラストサムライ』に続けと、日本でトム・クルーズ並に根強い人気のキアヌ・リーヴスを配してユニバーサルが挑んだ時代劇大作…になるはずだった本作。『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』の脚本家起用や。追撮からなる公開延期などから、同じく真田広之が出演し、中国映画界の笑いものとなった『PROMISE無極』級のトンデモか?という期待が高まったが、さらに残念な仕上がりに。
『もののけ姫』リスペクトな怪物との戦いなど、序盤ではそれなりにトンデモ感を煽るが、その後は“できるだけ「忠臣蔵」を忠実に、マジメに描いてみました”という予想だにしない展開が待ち受ける。なぜか『日陰のふたり』『鳩の翼』の脚本家がいることで、こんな事態になった感があるが、かといって、CM界出身の新人監督にオリジナルが持つカタルシスを描く力量なんてない。その結果、延々薄っぺらいコスプレ芝居を見せられる始末。そんななか、一人ファンタジー要素を担う大役を背負わされ、テンション高めで奮闘の菊地凜子。心の中で、もうちょい「ジプシーデンジャー」にいれば…と叫びたくなるほど空しい。
怪作になりきれない、ある意味マジメなファンタジー
キアヌ・リーブス主演で忠臣蔵を撮るという発想。それだけで、『キル・ビル』的なトンデモ日本を期待してしまう方は多いだろう。かく言う筆者も、笑う気満々で向き合ったのだが、これが意外にも堅実な作りで肩透かし。
忠臣蔵の肝というべき、仇討のベースになる忠義の精神にはブレがない。四十七士のひとりである、キアヌふんする異種と、他の浪士たちの間に生じる葛藤も必然的で、その間の溝を埋めつつ仇討という共通の目的のために立ち上がる展開も、丁寧に描かれている。スピリットやドラマの点では、頑張っている部類と言えるだろう。
しかし忠臣蔵のイメージがこびりついている日本人としては、天狗や妖術などの非現実な要素や、血のり皆無の剣劇に引っかかりを抱かずにいられない。将軍が赤穂に何度も足を運ぶのも不自然だし、キアヌ以外の主要キャストが日本人であるにもかかわらず、セリフがすべて英語である点にも違和感がある。忠臣蔵をファンタジーとして描いたといえなくもないが、マジメな作りとトンデモな展開が噛み合っているとは思えず一歩引いて見てしまう。忠臣蔵に触れたことのない若い観客は、この映画をどう見るのだろう?
真っ当なのが功を奏すか?仇となるか?
先に公開された米国版予告編から珍品臭を嗅ぎ取り、いろんな意味で期待に胸を膨らませている人も多いはず。だが、基本スートーリーは良くも悪くも真っ当な「忠臣蔵」。大石内蔵助役の真田広之は『ラストサムライ』よ再び…のごとく凛々しく、浅野内匠頭の娘役の柴咲コウは、海外の日本女性に対する美意識を変えてしまうのではないか?と思えるほど美しい。しかし、そこが際立ってしまってはダメなのだ。本作が目指してたのは、魑魅魍魎が漂う異世界を最新VFXを使って表現したネオ「忠臣蔵」だったはず。だが肝心の、異端児キアヌや、゛日本のヘレナ・ボナム=カーター゛ことクレージーな役ならお任せ!の菊地凛子の暴れっぷりが物足りなくて、消化不良。いっそキアヌを大石役にしても゛無問題゛だったと思うが、゛とんでもニッポン゛を恐れるあまりに腰が引けたか? もっとも「忠臣蔵」を知る日本人と違い、海外の人にはこれでも新鮮に写るのかもしれないが。
しかし解せないのは、予算オーバーに追加撮影と、なぜにこの映画に製作時間がかかったのか? むしろ元のバージョンが観たくなった。