エリジウム (2013):映画短評
エリジウム (2013)ライター2人の平均評価: 4.5
かつて夢見た理想の未来を、もう一度肯定し直す健康的な強い意志
生活に疲れ果て見上げれば天空に浮かぶパラダイス。『ガンダム』を反転させたような近未来で、富める者が「上」のスペースコロニーで不老不死を謳歌し、スラム化した「下」の地上ではマシンに管理された者たちが貧困にあえぐ。ステレオタイプな二極化社会を設定しながらも、バトルの構図は決して貧富だけではない。『第9地区』に次いでニール・ブロムカンプ監督が着目したのは、被差別者の劣悪な医療。視覚的には過去のSFにオマージュに捧げつつも、あくまでも現代社会が抱える問題から触発されて生み出されるゆえ、彼の作品は単なるサブカルの申し子では終わらない。
なぜ涙腺さえ緩むのか。シド・ミードの描く流線形のビジョンは、ディストピアSFでは皮肉めいた楽観的なものとして扱われてきた。むろん快適な暮らしに限らず、永遠の命など手に入れれば厄介極まりない。しかし本作では、見上げる者の視座に共感させる話法にこそ意味がある。硬直化した前時代のシニカルな未来観を吹き飛ばし、ユートピアなどもう来ないという不文律をリセットする。ここには、60~70年代に夢見た理想の未来を、もう一度肯定し直そうとする健康的な強い意志がある。
大友克洋的なSFリアルタイプ・コミック
一言でいうと、『第9地区』の「普及版」だろう。前作で南アフリカ共和国の被差別エリアに住むエイリアンの難民を描いたニール・ブロムカンプ監督の強烈なカラーはそのままに、富裕層(天国)と貧困層(地獄)に二分された激烈な階級社会という『メトロポリス』を原点として『未来惑星ザルドス』から『TIME/タイム』まで続くSF定番の設定へと拡大させた。そのぶん独創性はやや減じたが、娯楽度は上がっている。とりわけ汚染された地球の様相は、今の日本に住む我々にとって既に他人事では済まない。
また、マット・デイモン演じる主人公がパワードスーツを乱暴な手術で装着する際に「スラムのニンジャ」と称されるが、刀や手裏剣など日本趣味が散見される作品でもある。フェティッシュなメカの作り込みとストリート感覚は、大友克洋やそのフォロワーたちが描くリアルタイプのSFコミックに近い味わい。
希望や理想を強く謳う救世主の物語は、ハリウッド的なメロウネスとして快く受容できると思う。ただ一点、金持ちのイメージが“ワインにクラシック音楽にガーデンパーティー”と超ベタなのはご愛敬!(笑)。