ウルフ・オブ・ウォールストリート (2013):映画短評
ウルフ・オブ・ウォールストリート (2013)ライター5人の平均評価: 4.2
強欲資本主義の本性を晒すスコセッシ×ディカプリオの最高傑作!
吹っ切れてる。スコセッシ映画としては、『レイジング・ブル』より破滅的で、『カジノ』より背徳感に溢れ、『グッドフェローズ』よりも笑いが黒い。スコセッシ×ディカプリオのコラボは、90年代ウォール街の恥部を暴き、5度目にして最高傑作となった。
カネとセックスとドラッグにまみれた日々。金融ギャングによるアメリカンドリームのなれの果て。加速度的にジャック・ニコルソン化するディカプリオの怪演が、社会の表層をひん剥いて強欲資本主義の本性を晒す。とことん醜悪ゆえに痛快で魅せられもする。デカダンを極めた“スコセッシ版『カリギュラ』”は、未だに狂気の経済サイクルの渦中を生きる我ら現代人のはらわたでもある。
これもまた米国史の一部
アメリカン・ドリームという甘美な響きに誘われて、大陸に渡る者は後を絶たない。だがまやかしの栄光は、メッキが剥がれるのも早いことをまざまざと見せつける。強欲に溺れた人間の狂気の沙汰のみを描くことで。本作を観た後も、夢を抱き続けられる人はいるのだろうか? これは、強烈な反面教師映画である。
凡人が落とし穴に墜ちる様をリアルに見せるための配役が効いている。レオの相棒役にジョナ・ヒル、父親役にまさかのロブ・ライナー監督まで。主人公の濃すぎる約10年の人生ドラマの中で、彼らの存在さえも一服の清涼剤。こちとら、3時間体感しただけで膨満感。
仕事よりもキメまくって、ヤリまくる怒涛の179分
貧乏な家庭に育ち、達者な口と行動力で成り上がり。あまりの豪快さ&カリスマ性ゆえにFBIにマークされ、仲間を売った実在の男の転落人生。これを目まぐるしいテンポで描く179分は、まさに“レオ版『グッド・フェローズ』”だ。
とはいえ、過去のレオ&スコセッシのコラボ作に比べ、明らかに肩の力抜けてます感が、いい意味でオスカーに影響しそうな気がする。なんせ仕事のシーンより、キメまくって、ヤリまくるシーンが連発。笑えるほどに、お下劣。そして、基本「半沢直樹」ばりに怒鳴っている。そのトップバッターを飾るのは、最初の上司役のマシュー・マコノヒー。わずかな出番ながら、ここでもしっかり爪痕を残すのだった。
主人公の熱狂に共感し、彼の拝金主義をヘイトする面白さ
スコセッシの新作がゴールデングローブ賞のドラマ部門ではなくミュージカル・コメディ部門にノミネートされたのは、近年では珍しい。そんな興味も手伝い興味深く見ることができた。
熱狂できる世界を見つけた者の成功と挫折というスコセッシお得意のテーマは健在だ。自宅軟禁を余儀なくされ“退屈で死にそうだ”と訴える主人公の姿に、『グッドフェローズ』等で描かれた熱狂者の挫折が見えてニヤリ。
とはいえ、映画は主人公の拝金主義を肯定しない。ギャングの世界と違い、スコセッシがウォール街にロマンを見出していないのは明白だが、それでも目が離せないのは笑えるから。本作をブラック・コメディに仕立てたのは正しい。
スコセッシの軽快でアグレッシブな演出が長尺を感じさせない
口八丁手八丁で巨万の富を築いた実在の株式ブローカー、ジョーダン・ベルフォートの栄光と転落を描く。
顧客なんぞ所詮はカモとばかり、設立した会社で金儲けにひた走るジョーダンと仲間たち。自家用のヘリやクルーザーで豪遊し、役員会議じゃドラッグ必須。部下たちだって仕事の合間にオフィスで買春三昧、社員旅行でも乱交三昧。その愚かで滑稽な狂乱ぶりに、資本主義やアメリカンドリームの成れの果てを見せつけられる思いだ。
ディカプリオのぶっ飛び演技も凄いが、御年71歳スコセッシの軽快でアグレッシブな演出も圧巻。約3時間の長尺を全く感じさせない。妖艶なエマおばさん役にジョアナ・ラムレイを起用するセンスも好き。