マラヴィータ (2013):映画短評
マラヴィータ (2013)ライター2人の平均評価: 4
仁義なきファミリーの愉快で危ない逃亡生活
役立たずな修理業者を半殺しにするマフィアの父親にお手製の爆弾でスーパーマーケットを吹っ飛ばす母親、でもってナンパな男子をテニスラケットでボコボコにする娘に学内シンジケートを作って学校の裏社会を牛耳る息子。そんな仁義なきファミリーの愉快で危ない逃亡生活を描いたバイオレンス・コメディである。
前半は潜伏先のフランスで地域社会に溶け込もうとする一家の悪戦苦闘を描く。なにしろ、世間との価値観がズレた人々だけに、やることなすこと裏目に出ることこの上なし。FBIの証人保護監視下に置かれているので、本当はひっそりと暮らさねばならないのだが、いやでも目立ってしまうわけだ。で、案の定というか、組織の暗殺団に居どころを嗅ぎつけられ、後半は一家総出の全面バトル。悲壮感すら漂わせた決死の肉弾戦は、漫画的な荒唐無稽を回避した絶妙のバランス感だ。
古いマフィア映画へのオマージュを交えつつ、肩の凝らない良質なB級娯楽映画に仕上げたベッソン監督の演出は安定感抜群。暴れん坊オヤジを楽しげに演じるデ・ニーロも素敵だが、その横で呆れた顔しながら一家を見守るFBI捜査官トミー・リー・ジョーンズが最高に微笑ましい。
ベッソンの才覚と交渉力が生んだ強力な「企画もの」
リュック・ベッソンは、いま最も毀誉褒貶の激しい映画人のひとりかもしれない。それは彼の率いるヨーロッパ・コープ社が良くも悪くも安めの娯楽路線をひた走っているうえ、自身の監督作の出来が冴えず、『グラン・ブルー』あるいは『レオン』までの作家として尖っていた時期との落差がきっついからだろう。
だが本作『マラヴィータ』を観ると、ベッソンの才覚を思い知らされる。この映画のキモは交渉力だ。原作は数年前に『隣りのマフィア』の題で邦訳が出た小説なのだが、重要なアイテムとして『グッドフェローズ』が登場する。本作ではそれを単なるネタで済まさず、なんとデ・ニーロを主演に迎え、スコセッシを製作総指揮に引き入れた。「本物」を組み込むことで、ギャング映画史をメタ視点で捉えたパロディ喜劇の決定版を成立させてしまったのだ。
原作者のトニーノ・ブナキスタは、『リード・マイ・リップス』などジャック・オディアール監督作の脚本家としても知られるが、オディアールの渋く硬質な作風では、この鷹揚なノリの「企画もの」にそぐわない。やはりベッソンだからこその一本。「自分にしかできない仕事」を持っている人間は結局強いね!