ジャージー・ボーイズ (2014):映画短評
ジャージー・ボーイズ (2014)ライター7人の平均評価: 4.3
アメリカン・ポップス黄金期を彩った男たちの友情ドラマ
芸能という商売のヤクザな一面をしっかりと見据えつつ、地方都市に育った4人の若者の成功と挫折と再生の物語を、アメリカン・ポップス黄金期の華やかさと複雑な友情のほろ苦さを交えながら描く。主人公各人を語り部にドラマを繋いでいくイーストウッドの鮮やかな手さばきが見事だ。
音楽ファンでなくとも楽しめるのは間違いないが、しかし、名コンビとしてフォー・シーズンズ以外にも楽曲提供するボブ・ゴーディオとボブ・クルーの出会い、俳優ジョー・ペシとの意外な関わりなど、マニアなら思わずワクワクさせられる場面もいっぱい。人気ガールズ・グループ、ザ・エンジェルズをナンパする下りにもニンマリさせられる。
祝祭空間としての人生を包み込む眼差し。人生は巡り人は皆甦る。
老匠の瑞々しく軽やか手さばきに、身も心も洗われる。オールドファッションな再現性も、耳に馴染みのある名曲とその誕生秘話も劇的で素敵だが、何よりも、誰もが経験しうる普遍的な人生のドラマとして奇跡的な完成度だ。うらぶれた街も華々しいショウビズもいかがわしい裏社会も、イーストウッドは熱くなりすぎず達観することなく、慈愛に満ちた眼差しで見つめている。出会い・別れ・栄光・挫折そして再起…全てを分け隔てなく優しく包み込み、祝祭空間としての人生を温かく愛でている。今は刀折れ矢尽き、憔悴しきった人生の旅人にこそ観て欲しい。生まれ変わって再び歩き出す力を、この映画は与えてくれる。人生は巡り人は皆甦る。
不良男子の色気たっぷり
フランキー・ヴァリ役のジョン・ロイド・ヤングほかフォー・シーズンズの演奏シーンは、「モノマネ」が「ガチ」に昇華する類いの歌唱芸の究極。アナログな音の響きも最高。そして余裕綽々の話芸。神格化が苦手な筆者も「これは神ワザだよ!」とうっとり。
ニュージャージーの郊外で生まれた不良男子たちの出会いと別れ(とその後)。ヤクザも絡む大衆芸能史のぶっとい色気。イーストウッドが「職人」に徹した時の凄みが凝縮されている。
「予備知識ナシでも全く問題なし、でもマニアならばもっと楽しめる」映画の好例でもある。『タモリ倶楽部』OPテーマのロイヤル・ティーンズ「ショート・ショーツ」にこんな形で触れるなんて……悶絶!
良くも悪くもイーストウッド映画
ホイチョイ・プロダクションを崇拝する者としては「君の瞳に恋してる」の誕生秘話が描かれるのは、うれしいこと。また、久しぶりにクリストファー・ウォーケンのステップが見れるのもたまらない。ミュージシャンでもあるイーストウッドが『恐怖のメロディ』『バード』に続き、前面的に音楽をフィーチャーする時点で、ハードルが高くなるが、良くも悪くもイーストウッド映画。つまり、映画としての完成度は高いが、“人気ミュージカルの映画化”を期待して見ると、どこかもの悲しさが残るし、同様のテーマである『すべてをあなたに』のようなキャッチーさに欠ける。そんな意味も含め、流れてしまったジョン・ファヴロー監督版も観てみたいものだ。
C.ウォーケン含め全員助演男優賞候補!
たとえ袂を分かっても、ルーツであるニュージャージーのイタリア系コミュニティにこだわる男4人の侠気が泣かせてくれる。音楽には造詣の深いクリントであるから、いわゆるミュージカルらしいミュージカルではなくても、ステージングの羅列に終わらず音楽的かつ視覚的な趣向を凝らし、さらにメンバー各人に語り手をリレーさせていく(メンバー内で最も目立たないニックが語りだしたとき、ドラマは客観的な視点を獲得し最高潮を迎える)というのが素晴らしく映画的。なんでもオリジナル舞台(主要キャストはほぼ同じ)はもっと“明るく楽しい”らしいが脚本家は同じ。監督の意向というだけでなく、突っ込んで人間を描こうという意欲が顕れている。
ミュージカル映画というより立派なイーストウッド作品
舞台のミュージカルをイーストウッドが映画化すると聞いたときは、さすがに“???”となったが、見てみて納得。タイトルどおり、これは“ボーイズ”の物語である。
共通の夢に向かって共に進むうちはいいが、成功を手にした途端にあらわになる軋轢。リーダーさえアラが見えて頼るに頼れない。そんな危うさや、それでも捨てられない友情など男同士の間に生じる“ダメ”を見せつけるという意味で、まぎれもないイーストウッド作品。たとえれば、鬼軍曹不在の『ハートブレイク・リッジ/勝利の戦場』というべきか。
音楽を尊重するイーストウット節も快調。“君の瞳に恋してる”をはじめとするヒット曲もしっかり聴けるのが嬉しい。
この曲もあの曲も誰かのカヴァーで知ってるはず
ああ、この曲は全部聴きたいな、と思うと最後までフルで聴かせてくれる。なんだかオリジナル曲も聴きたくなったな、と思うと最後のエンドロールで流してくれる。そんな音楽ファンの希望に、きっちり応えてくれるのが気持ちよい。これも監督クリント・イーストウッドが音楽好きだからだろう。
主人公はいつものイーストウッド映画と同じ、最後まで自分の信念を貫く男だが、今回は、画面をセピアがかった色調にすることでこれが現代ではなく古き良き昔の物語だという枠組みを示し、映像も物語も柔らかい。この枠組みがあるから、懐メロにも、古風な男の友情にも、何も考えずに身を委ねてたっぷり浸ることが出来る。