ビフォア・ミッドナイト (2013):映画短評
ビフォア・ミッドナイト (2013)ライター4人の平均評価: 3.3
極めて現実的な共感の向こうにあるロマン
このシリーズと共に年齢を重ねた筆者にとっては、”あるある”がいっぱい。セリーヌの体型の変化も共感度満点だが、恋愛観から人生哲学、文学や歴史、下ネタまで、過去、現在、未来と縦横無尽に会話を飛躍させるのは、やはり女性特有のものなのだろうか。シリーズ最高とも言える、とめどなく続くセリーヌのおしゃべり攻撃には、思い当たる節があり過ぎてにやにや。
ジェシーのヨレっぷりも半端じゃない。が、怒濤の会話劇の中でふと「完璧じゃないけど本物の愛がここにある」なんて台詞が出てくるあたりがツボ。これほど使い古された台詞が、これほどロマンチックかつ説得力をもって聞こえるとは! 黄金トリオの脚本は、さすがなのである。
結ばれても、中年になっても、活きた会話の魅力は健在
前作から9年を経て主人公の男女も年齢を重ね、中年になったワケだが危うい関係であることに変わりない。それをリアルな会話を主体にして描くシリーズの妙味も健在で、ファンには嬉しい。
前2作と異なるのは、ふたりがすでに結ばれ、家庭を持っていること。とはいえ夫婦には夫婦なりの感情の駆け引きがある。“破局の始まりね”“今出会ったら私を魅力的だと思う?”などの相手を試すようなヒロインの発言に男としてはドキッとさせられる。
主演のふたりが今回も脚本に関わっているだけあり、セリフのハツラツ感は格別。劇中のカップルとともに年輪を重ねた観客は、ちょっとした感慨を覚えるのではないだろうか。
ある意味、問題作(笑)。
旅先でのボーイ・ミーツ・ガール(『恋人までの距離』)から、大人になったふたりの再会(『ビフォア・サンセット』←私的ベスト)を経て、今回はいきなり破壊的な内容である。冒頭からくたびれた中年全開! しかも「友人以上恋人未満」的な曖昧な関係がキモだった彼らに双子の娘がいるって、驚愕!
土俵入りする勢いのJ・デルピーが、自分の現実を取り繕う気ゼロなのが凄い。しかもやたら脱ぐ。ただアラフォー女芸人的な下ネタのせいで、彼女自身の監督作との差がなくなったのが最も微妙な点か。
でもジジババになるまで続けて欲しい。人生が続くかぎり物語の結末は変わり続ける、ってことを教えてくれるのが、このシリーズなのだから。
こんな2人の姿は見たくなかった…
18年前の1作目に比べ、9年前の2作目の時点で、すでにドキドキ感は薄れていたが、主人公2人のあいだに双子の娘までいる最終作は、もう別モノに見えてしょうがない。
ギリシャの海辺を舞台に、相変わらずセリフを畳み掛けてくれるが、その一言一言が重すぎて、前2作のようなウィットに富んだ、ある意味使えそうな会話は皆無。年齢を重ねることで見えてくる風景を描くのが、このシリーズの醍醐味なのだろうが、離婚する、しないだのと、やり合う2人の姿は正直観たくなかったし、もうちょい夢を見せてほしかった。
注目の若手と、もてはやされたリチャード・リンクレイター監督も、五十路半ばと考えると、これは自然な流れか?