アントマン (2015):映画短評
アントマン (2015)ライター5人の平均評価: 3.4
やっぱり…あの人のヴァージョンが観たかったかな。
P.リードのややレトロな美的センス、コメディの才を僕は大きく買ってはいて、本領発揮とまでは言えぬものの大健闘してはいるが、やはりE.ライトが監督していたらどうなったのかという叶わぬ夢がつきまとう。なんでもライト脚本はもっとシリアス (!?)で、原作ファンのリードはより原点に近づけたのだというけれど、それでもライトらしいアホの痕跡はあちこちにある…ように思う(特にクライマックス、誘蛾灯のくだりなど最高)。アイアンマン以上にちゃらんぽらんなヒーロー、P.ラッドや、『ブルージャスミン』以降重宝されてるコワモテB.カナヴェイルは好演だが、M.ペーニャはコメディが苦手なのか、意外にもあまり笑えない。
マーベルユニバースでもっとも愛すべきヒーロー、か!?
コメディの分野で活躍しているポール・ラッドがヒーローを演じるとなれば、これまでのマーベル・ヒーローとは違うことも想像できるが、想像以上に共感を引き寄せるキャラでグッときた。
無職で前科持ちで、うだつの上がらないという言葉がピッタリくる主人公。それでもお人好しで子煩悩……という設定が効いており、ラッドの人好きのする個性と相まって、ついつい応援してしまう。
クライマックスの戦場が高層ビル街や荒野ではなく家の中というのも、主人公のサイズ(肉体面だけでなく中身的にも)に合っていて妙味。キッチンや子ども部屋で伸びたり縮んだりしながらのバトルは、このヒーローならではの味だ。
正直者がバカを見る世の中で、ちっぽけなヒーローが悪を正す
人生に行き詰った負け組中年男が、特殊スーツによって蟻んこサイズの極小ヒーロー、アントマンへと変身し、軍事企業の恐るべき野望に立ち向かう。
大企業の不正を告発したせいで仕事も家庭も失った主人公。正直者がバカを見る今の世の中で、ちっぽけなヒーローが巨大な悪を正すというストーリーが痛快だ。仲間が貧困層の窃盗団ってのも皮肉が効いているし、主人公の願いが“娘にとって誇らしい父親になること”っていうのも泣かせる。
現代社会を蝕む新自由主義経済やアメリカ式資本主義への批判が込められているのは明白。そうした社会性とエンタメ性のバランスが絶妙だ。やっぱり、なんだかんだ言ってマーベルヒーロー物は侮れない。
『チアーズ!』の監督がいい仕事してます。
もう全然二枚目キャラじゃないポール・ラッドの抜擢や、人間味ダダ漏れすぎるマーベルキャラという点で、『アイアンマン』にも似た異端ヒーローの雰囲気が漂うなか、『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』直後ということもあって、まったく気負ってない感じが持ち味の本作。主人公スコット・ラングのダメ親父キャラだけでなく、マイケル・ペーニャやT.I.ら、窃盗仲間とのブロマンス要素など、まさにエドガー・ライトこそが監督に適任だったが、そこは『チアーズ!』『イエスマン』の職人監督ペイトン・リード。ベタなギャグアリ、スパルタな訓練シーンアリ、トーマスを巧く使った列車アクションアリと、いい仕事してくれました。
誰のギャグなのか推測しつつ見るのも楽しい!
マイケル・ペーニャが語る伝聞シーンと、「きかんしゃトーマス」のおもちゃの列車での激闘シーン、そしてあのアリが最高! それだけで見る価値がある。「ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!」のエドガー・ライト監督のファンとしては、彼が途中で降板したのが残念でならない本作だが、完成版の脚本のクレジットは4人。エドガー・ライトと、彼が製作した「アタック・ザ・ブロック」の監督ジョー・コーニッシュ、本作の主演のポール・ラッドと、彼が出演した「俺たちニュースキャスター」シリーズのアダム・マッケイの計4人。となると、どのギャグが誰のネタなのか、思わず推測しながら見てしまうが、それも楽しい。