L.A.コールドケース (2018)：映画短評

　‘90年代後半に大物ラッパーの２パックとノートリアス・B.I.G.が相次いで殺害された事件は、当時巨大ビジネスと化したヒップホップ業界の闇を改めて垣間見させ、世間に大きな衝撃を与えたわけだが、本作はその背後に絡む警察権力の腐敗を浮き彫りにする。ノートリアス・B.I.G.殺害事件の捜査を担当したロス市警刑事の実話を基にしつつ、そこへ真相を追求する架空のジャーナリストを投入することで、複雑に入り組んだ背景事情を整理整頓した脚本の構成が巧い。L.A.ノワール的な渋いムードもなかなか秀逸。主演のジョニー・デップが言われなき汚名を着せられたことで、公開規模が縮小されてしまったことは実に惜しまれる。

「Unsolved: 未解決ファイルを開いて」でも描かれた2パック＆ノトーリアスB.I.G.（ビギー）の暗殺事件とL.A.市警の腐敗に迫る捜査を映画化。ドラマではジミ・シンプソンが演じた実在の刑事を、ジョニー・デップが演じることで映画としての醍醐味が増大。さらに、逆境に追い込まれても真相を究明しようとする姿が、名誉毀損裁判で戦い続けたジョニデ自身とシンクロする。ビギーの実母も登場するなど、ヒップホップ好きにはマストな一本だが、『リンカーン弁護士』のブラッド・ファーマン監督作だけに、あくまでも人間関係が入り組んだ骨太なドラマに（こっそりマイケル・パレも出演）。そこが評価の分かれどころだろう。

『ストレイト・アウタ・コンプトン』の続きの時代。2パック＆ノトーリアスB.I.G.の暗殺事件の背景に、シュグ・ナイトと癒着していた汚職警官たちが居たのではないか――という未解決の闇の謎を、18年越しで追い続けるロス市警の担当刑事だったラッセル・プール。彼の捜索に記者ジャックが絡む形で、当時（1997年）と現在（2015年）が二層構造で語られていく。

最近色々あったジョニデだが、2018年の本作では燻し銀の味わいを見せ、初共演となったF・ウィテカーとの組み合わせも申し分ない。展開力にやや欠けるのが惜しいが、『リンカーン弁護士』等のブラッド・ファーマン監督らしい「自力の男」の生き様が染みる。

　ジョニー・デップが、ただ実直に事件を捜査し、真相を追い続ける刑事を静かに演じる。老けメイクでもう若くなく疲れた男をも演じながら、それでもジョニー・デップらしいと感じさせるのがこの俳優の持ち味だろう。

　実際に起きた事件を元に描かれるが、本当は何が起きたのか、誰の言うことが真実なのかがすぐには分からない。フォレスト・ウィテカー演じる記者と一緒に、デップ扮するかつて事件を担当した刑事を取材しながら、まるで迷宮の中を彷徨っているような心持ちになる。事実が少し見えてくるたびに、より事態の闇が深まっていく。そういう物語なので、舞台はロサンゼルスだが、世界はいつも光が少なく、冷えて濁った色をしている。

L.A.警察の腐敗を暴く衝撃的な映画。自分が住む街でこんなことが起きていたとは信じられない。まずは、作り手の勇気に拍手。ブラッド・ファーマン監督は、長年連絡を取っていない警察関係の友人に「作るのはやめておいたほうがいい」と警告されたという。公開が遅れたのも、ジョニー・デップがクルーに訴訟されたからだと言われてはいるが、おそらくそれだけではない。そのデップは、真実の追求に取り憑かれた男が次第に蝕まれていく様子を信憑性たっぷりに演じている（真実、という言葉が最近の裁判とつい重なるのはさておき）。スリラーとしては全体的にやや迫力に欠けるが、デップとフォレスト・ウィテカーの演技に引き込まれた。