陽だまりの彼女 (2013):映画短評
陽だまりの彼女 (2013)ライター4人の平均評価: 3.5
純愛劇はサプライズを経て、儚く普遍的なファンタジーへと変わる
所詮セカイ系だろ、と高を括ってはいけない。先入観を捨てて臨む価値がある。感傷的なハイキーの映像と、クローズアップによる視線の豊かな交錯と、懐かしきザ・ビーチ・ボーイズの音楽によって、純度の高き想いを掻き立てるラブロマンスは、サプライズを経て、はかない幻想譚へと変わる。
松本潤が、いつになく柔らかい。感性演技を封印した上野樹里は、眼差しでたおやかさと陰りを表わす。中学時代に扮する北村匠海と葵わかなの好演も光り、感情に連続性を与える。終盤の展開をありえないと否定するのは野暮だ。三木孝浩演出は、日常から非日常へゆるやかに移行させ、彼女の秘密を信じさせる。「人が人を恋うるとき人は誰でもさびしんぼう」という大林映画の言葉が脳裏をよぎり、多様な解釈が拡がる。
暖かな陽光に包まれた男女の時間は限られ、それゆえ永遠を希求する。これは、価値観を共有しながらも喪失を覚える『(500)日のサマー』であり、時間差よりも切ない『時をかける少女』であり、そして何より大人びた『崖の上のポニョ』ともいえる、普遍的なファンタジーの名篇である。
シネコン時代のJ・ヒューズ、大林、C・クロウ
『ソラニン』『僕等がいた(前篇・後篇)』に続き第三作目となる三木孝浩監督は、早くも独自のポジションを築きつつある。それはティーンムービーの範疇に属する甘酸っぱい青春映画の専門職人だ。興行的には全作スマッシュヒットを飛ばしながら、批評側の評価が追いついていないのは、本ジャンルのキモがチープな「お菓子感」にあるからだろう。でも三木監督にはこの路線を貫いて欲しい。彼には、ジョン・ヒューズと大林宣彦から映画を始めました、みたいな筋金入りの趣味性を感じるからだ。
今作において筆者が惹かれる点は、名盤『ペット・サウンズ』の冒頭を飾るビーチ・ボーイズの名曲「素敵じゃないか」からのインスパイアード・ストーリーになっていること。“駄目な僕”のどん底に突入したブライアン・ウィルソンによる究極の妄想ラブソング。このポップ・ミュージックを介したロマンティシズムはキャメロン・クロウ的と言える。
ラブ・ファンタジーの表現的主題が「儚い恋の時間をいかに永遠化するか」だとすれば、陳腐さギリギリの綱渡りに巧く成功していると思う。三木監督の次回作は能年玲奈主演の『ホットロード』らしい。今から楽しみだ。
彼女の“秘密”を受け入れられるかが分かれ目
これはもう、後半に明かされるヒロインの“秘密”を受け入れられるかどうかに、全てが懸かっているのではなかろうか。
少なくとも、前半は中高生向けの甘酸っぱい青春ドラマとして秀逸。高校時代を描くフラッシュバックの淡いノスタルジーが、出来すぎとはいえ胸キュンするに十分だ。現代パートにしても、社会人の生活ってこんなんだろうな~という少年少女の妄想的ノリこそ否めないが、それはそれで作品全体の世界観を形成していく上で許容範囲だと思える。
が、しかし!ヒロインが実は“あれ”だったということが明かされた途端、本来のファンタジーという目的は逆に生々しいリアリティに変わってしまった。なにしろ、彼女が“あれ”なのにも関わらず、たとえ男の側はその事実を知らないにしても、キスして結婚して、なおかつ直接的な描写はないけどベッドインまでしているわけだ。
ここで素直に気色悪いとしか思えなかった私は、もしかするとこの作品を楽しむには歳を取りすぎているのかもしれない。いや、もしこれがアニメだったら納得はせずとも、余計なことは考えずに済んだのかも。いずれにせよ、人によって好き嫌いはかなり分かれるはずだ。
じつは『時かけ』リスペクトなファンタジー
単にオチだけ聞けば、M・ナイト・シャマラン監督作のようなトンデモ映画にしか見えないだろう。だが、アイドル映画の定番『時をかける少女』『ねらわれた学園』と同じジュブナイルもしくはラノベ原作と考えれば、このオチにしっくりいくはずだ。
明らかに作り手が原田知世版『時かけ』をリスペクトしていることもあり、『セカチュー』以降の“泣ける映画=難病モノ”と考えがちな世代に比べると、大林宣彦監督のファンタジー慣れしたアラフォー世代に響く作りになっている。だが、それもスカスカだった『ソラニン』からは想像できない三木孝弘の映画監督としての手腕なしにはありえなかっただろう。
そして、なんだかんだ言ってもヒロインを演じる上野樹里がいい。「のだめ」以来のハマり役といえるし、彼女の中学時代を演じるドルオタ注目の「乙女新党」メンバー、葵わかなもいい。江の島のロケーションも、尾道よろしく聖地巡礼したくなるほどいい(もちろん、頼りなさげな松潤も)。
ただ、原作にも登場するビーチボーイズの「素敵じゃないか」があまりにいいので、山下達郎の主題歌が邪魔にも思える。これも『謝罪の王様』に続き、オトナの事情なのか…。