ある過去の行方 (2013):映画短評
ある過去の行方 (2013)ライター3人の平均評価: 4
あらゆる紛争の縮図がここにある
それぞれ秘密とわだかまりを抱えた複雑な家族。妊娠中の女と恋人の男、そしてお互いの連れ子。そこへ、女の別居中の夫が訪れることで偽りの平穏が脆くも崩れ、やがて暗い過去の真相が頭をもたげる。
人間というのは往々にして勝手な生物だが、本作の主人公たちは自分の感情を周りに押し付け、出来事を都合のいいように解釈し、いつまでも過去に囚われている。その結果、互いに傷つけ合うのだ。ある意味、世界各地で起きている民族紛争などの縮図とも言えよう。
記憶は平気で嘘をつく。真実は必ずしも一つではない。パリを舞台にした普遍性の高いドラマではあるが、常に争いを抱えたイラン出身のファルハディ監督らしい視点を感じる。
愛はいつでもサスペンスフル!
離婚手続きをする夫婦が4年ぶりに再会したことで彼らを取り巻く人間関係や自身でも認めたくなかった感情が浮き彫りにされていく。国際結婚カップルが直面せざるを得ない文化差や不倫、不法移民問題を盛り込んだ物語は奥行きが深くなっていて、さすがは『別離』の監督と思わせる。それぞれの登場人物が心の奥に隠していたわだかまりがつまびらかにされ、憶測ではわからなかった真実に触れた人間の反応たるや! 愛はいつでもサスペンスフルなのだ。人間関係の齟齬はボタンの掛け違いによることが多いけれど、ベレニス・ベジョ演じるヒロインの選択に我が失敗を重ねる女性は少なくないはず。自分の心と向かい合うって難しいけど、重要だ。
これぞ社会派サスペンス!
『彼女が生きた浜辺』『別離』の監督がフランスで撮った、またしても痛すぎるミステリ。出てくる大人は、過去を見て見ぬフリするor信じたいようにだけ解釈しようとする奴らばかり。だがその過去の扉は開かれたが最後、無限の疑惑の闇の中へと彼らを引きずりこんでいく。自分勝手な事情で右往左往する親連中のとばっちりを、真っ向から蒙るのは子供たち。その姿をしっかり捉えるキャメラも意地が悪い。すべてが伏線ともいえる緊密な構成力に唸る反面、脚本が完成した時点でできあがったも同然なタイプの映画ではあるかもだが、今回は物語にイラン社会の特殊事情が絡まないぶん、ファルハディの汎世界的才能を改めて確信させる。