LUCY/ルーシー (2014):映画短評
LUCY/ルーシー (2014)ライター8人の平均評価: 2.5
堕ちた鬼才の中二病的妄想には「千の風になって」を捧げたい
劇場に足を運ばせるヴィジュアルとコピーの力だけは認めよう。ヒロインが復讐を遂げる中二病的SF妄想アクションは、観る者のIQに応じてツッコミを誘うトンデモ映画だ。スカヨハの進化に反比例してベッソンの演出は退化する。体内にクスリが浸透すれば重力だってお構いなし。そうか、覚醒しきった能力はUSBメモリに収まるのか。科学性も哲学もなき超人思想を前に、モーガン・フリーマンの知性とチェ・ミンシクの狂気も台無し。堕ちた鬼才が危険なドラッグに手を出してしまったかのような迷走ぶり。いっそのこと、エンドロールには「千の風になって」を付ければ完璧だったのに。監督・脚本・主演女優のラジー賞制覇も夢じゃない。
スカジョ、最強女優伝説
本作と『アンダー・ザ・スキン 種の補食』を続けて観賞すると、味わいが増すに違いない。方や脳機能を100%生かせる女、方や色仕掛けで人類を捕獲する宇宙人。明らかに珍品の香り漂う両作を、並の女優なら避けるだろう。だが、彼女は迷わない。なぜなら私は世界一セクシーな女優。ホラ、皆が見たいのは私のカラダでしょ?とばかりに惜しみなく肉体も晒す。そこには、物語に多少難あれど、私の魅力で客が来るという絶対的な自信があるはずだ。
現に我々は、こんな話ありえねぇーと笑いつつ、最後まで楽しんでしまうだろう。ノってる女優だけが持つ人巻き込むパワー。それを今、世界で出来るのは彼女ぐらいだ。
来年のラジー賞、大本命現る!?
1/3以上の台湾ロケなど、好きか嫌いかと問われれば、好きと答えるが、去年の『ゴールデン・スパイ』に匹敵するトンデモ映画。スカ・ヨハ版『トランスポーター』×『ニキータ』で止めりゃいいのに、中二病が止まらないリュック・ベッソンが「キューブリックとか、マリックって監督、カッコ良くねぇ?」と、自身の中二脳が暴走。無謀にも『2001年宇宙の旅』『ツリー・オブ・ライフ』に挑むから、苦笑が止まらない。妙な力を得たため、ブラック・ウィドウなはずのスカ・ヨハのアクションに始まり、満載なアーカイブ映像や『トランセンデンス』とほぼ同じ役割なモーガン・フリーマンなど、“省エネ感”もツッコミどころ。
マンネリ打破で大暴走(?)のベッソン監督作
このところ似たようなネタの使い回しばかりで、マンネリ感のハンパなかったリュック・ベッソンだが、ここへ来てどうやらついに壊れてしまったようだ。
人間の脳が実は10%しか使われていない、という根拠の曖昧な仮説を前提にしているのは別に構わない。映画の基本はウソなのだから。で、ならば100%使ったらどうなる?という素朴な疑問を免罪符に、荒唐無稽の限りを尽くしていくわけなのだが、これがもう大胆というかバカというか(笑)。
こういう悪ノリは嫌いじゃないのだけど、古くからのベッソン・ファンは唖然とするかもしれない。あと、コリアンマフィアらしき組織の間抜けなボス役で情けなさ全開のチェ・ミンシクは気の毒。
10%さえ覚醒してるとはとても思えない…。
「人間の脳って10%しか機能してないんだって!」と科学読み物で初めて知った小学生レヴェルな「100%の能力」の発想に茫然。脳が覚醒していきなり『恋愛準決勝戦』かよ、スカーレットは結局「ひとりXメン」じゃないか、国籍も目的も判然とせずただ暴力的なだけのチェ・ミンシクって勿体なさすぎだろ、ウンチク垂れるだけで何もできないM.フリーマンは一体何なんだ…ひたすら程度の低いツッコミしか浮かばない幼稚な展開。そしてついに100%……ホント、今どきの子供なら鼻で笑う凡庸さ。思想性と宗教性を抜いた『ツリー・オブ・ライフ』なヴィジュアルに「あ、ベッソンは本当に終わった」と合掌させる作品だ。
ゲットアップし過ぎてしまったルーシー
10パーセントしか機能していない人間の脳がそれ以上機能し始めたらどうなるか? 科学で解明されていない分野だから、好き放題やってみました……とわんばかりの奇抜さが面白い。
身体能力や記憶能力が上がるのはもちろん、電波が見えるわ、そこに入り込めるわ。念動力や、後半の人間ではないものへの変化は、『AKIRA』への共鳴のようにも思える。
後半に進むほど脳が覚醒し、知能が英知に進化するにつれて物語は哲学的になり、アクション色は減退する。同じスカーレット・ヨハンソンでもブラック・ウィドーのような活躍を期待すると肩透かしを食らうのでご注意を。
脳が100%機能しなくてもいい、と思いました。
アイデア1つで最後まで突っ走るリュック・ベッソンの力技を体感できる異色SF。“10%しか機能していない人間の脳を100%機能させたら?”を前提に体内に漏れ出た新ドラッグで超人に変身するルーシーの進化とリベンジを見せて行く手法は、バカバカしいほど劇画ちっくでポップコーン・ムービーの王道! さすがベッソン! 遊び人の女子大生から復讐の天使へと変貌し、最終的には人間の本質を悟るルーシー役で物語を一手に牽引するS・ヨハンソンはさすがの存在感で、彼女なくしては成り立たない映画だった。脳の覚醒に関するベッソンの理論は失笑ものだけど、脳が100%機能しなくてもいいと思った私は彼の術中に実はハマっている?
21世紀版ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ
見る向精神薬。脳の使われていない部分が覚醒していくと、世界がどう見えるようになっていくのかを、主人公の主観映像で体験できるサイケデリック・ムービーだ。
この体験は快感かつ爽快。なぜなら覚醒したルーシーが、どんどん人間の欲望や動物の本能から解放されていくから。復讐は彼女の意識にすら登らない。「クロニクル」はスーパーパワーを手に入れた男子高校生は実はロクなことをしないという名作だが、超スーパーパワーを手に入れた女子大生が素晴らしいことをやってしまう本作も、それと対になる名作。
スカーレット・ヨハンソン、「her/世界でひとつの彼女」に続いて、人間以上の存在になるのがよく似合う。