白ゆき姫殺人事件 (2014):映画短評
白ゆき姫殺人事件 (2014)ライター3人の平均評価: 4.3
マスメディアが物語を捏造し、ツイッターが悪意を増幅する
現代人のはらわたを描かせれば当代一の湊かなえの原作を、中村義洋監督は鮮やかに映像に仕立て上げた。20~30代の俳優陣の演技力が見事に引き出されている。同時代的テーマへ斬り込みつつも娯楽性豊かで、今年の邦画ベストテンに食い込むべき一品だ。
殺人事件に群がる興味本位の人々と、苛まれた当事者たちの想いが積み重ねられる。マスメディアが物語を捏造し、ツイッターが悪意を増幅する。後半に行くにしたがい、メディアによって醸成される悲劇の連鎖が極まっていく。『赤毛のアン』のエピソードと、容疑者とTVクルーの出会いのエピソードは、人間本来のコミュニケーションとは何かを訴える情感溢れる場面として、胸を打つ。
観やすさを優先した良質のエンタテイメント
とにかくあの原作をまとめ切った映画監督・中村義洋の職人技を堪能する作品である。本作でもスゴすぎる貫地谷しほりをはじめ、次々に登場する若手キャストによる証言の数々と、女子あるある満載で構成された展開は、ツッコミを入れる間もないほど、めまぐるしく2時間超えの尺も飽きさせない。
ただ、同じ湊かなえ原作を映画化した『告白』のときのような映像のギミックや衝撃はないに等しく、マスコミやネット社会の怖さを描いているという割にツメは甘く、後味もサッパリ。要は観客に疲労感やカタルシス、トラウマを残すというより、観やすさを優先した良質のエンタテイメントだといえるだろう。
テクニカルで完璧。これぞプロの仕事!
まず湊かなえの原作を読了済みの人はびっくりするはず。あの“資料集”的な異色小説を、何とも鮮やかに再構築しているからだ。まさに日本で最も原作小説を正確かつ批評的に読める監督=中村義洋の面目躍如!
むろん普通に観ても抜群に面白い。スクールならぬOLカースト的なサバイバルを基本に、現代メディアの浅はかな精神性を切り取ったミステリーにしてブラックコメディ。
各々の証言が食い違う話法は黒澤明『羅生門』系だが、同時代性に向き合った題材、計算の行き届いたキャッチーな組成は伊丹十三に近い。中村監督は『マルサの女』に触発され、『スーパーの女』の助監督を務めた人だが、本作は最も師匠に肉薄した一本ではないか。