レッド・ファミリー (2013):映画短評
レッド・ファミリー (2013)ライター3人の平均評価: 4
南北朝鮮風刺劇にとどまらない涙腺全開必至の感動作
主人公の仲が良くて礼儀正しくて幸せそうな一家は、実は赤の他人が寄り集まった北朝鮮の潜入スパイ。そんな彼らの目を通して平和ボケ&贅沢慣れした韓国人の堕落ぶりを嘲笑しつつ、愛する家族を国家の人質に取られ、独裁者のために多大な犠牲を強いられる主人公たちの悲哀をも浮き彫りにしていく。
ほのぼのとした笑いと背筋の凍るような衝撃を絶妙なテンポで織り交ぜたイ・ジュヒョン監督の演出は見事なもので、観客はやがて家族としての絆に目覚めていく主人公たちに強く共感し、彼らの背負わされた理不尽で残酷な運命に切なく涙し、そして絶望の中にあっても僅かな希望の光を見出そうとする彼らの姿に胸打たれる。いや、凄い映画だ。
シットコムで南北問題を描く異色アプローチの傑作!
キム・ギドクは監督作として朝鮮半島の南北分断を扱った『コースト・ガード』を撮っているが、製作・脚本・編集のみを務めた今回はなんとシチュエーション・コメディに近い形式の異色ホームドラマ。北朝鮮スパイのニセ家族と韓国のダメ一家というお隣同士の対比を軸とし、米TV風に外野の笑い声が聞こえてきそうな作風。
そして後半から終盤は超エモーショナルに号泣モノの展開へ登り詰める。「家族愛」という手垢にまみれた主題を人間性のリアルな発露として、これほど切実にスパークさせた例は稀だろう。
監督の新人イ・ジュヒョンはウェルメイドな構築を見せる秀才タイプ。そんな彼に破格の発想を与えた天才ギドクのサポートは見事!
超えられそうで超えられない38度線の切なさよ。
脱北者暗殺のために韓国に潜入した工作員が仲良し家族を装っている設定がまずユニークだ。家(という名の前線基地!)に入るや民主主義NO!と反省を繰り返す4人が問題の多い隣人に呆れつつも故郷に残した家族を思う姿に、相田みつをじゃないが「人間だもの」とつぶやいてしまった。フェンス越しの会話が子供同士の交際、やがて互いの家での食事となり、ついには一緒の旅行まで!? 徐々に接近するご近所関係は、監督が望む南北関係への期待とも受け取れる。が、超えられそうで超えられないのが38度線だ。故郷に戻れないと悟っている老工作員が空を自由に飛ぶ鳥と体制に翻弄される我が身を比較するシーンがグッときた。