ダリオ・アルジェントのドラキュラ (2012):映画短評
ダリオ・アルジェントのドラキュラ (2012)ライター3人の平均評価: 3.3
少なくともビジュアリストとしては健在
イタリアンホラーの衰退と共に長らく迷走を続ける巨匠ダリオ・アルジェントが、ブラム・ストーカーの古典的怪奇小説の映像化に取り組んだ最新作。
往年のハマーホラーを彷彿とさせるゴシック調の映像は、必ずしもアルジェントらしいとは言えないものの、近年の不調ぶりを払拭するくらい美しい。確かにCGのトホホな安っぽさは否めないが、少なくともビジュアリストとしての健在ぶりを確認できただけでもファンとしては救われる。
しかしながら、原作を大幅にアレンジした脚本は相変わらずのご都合主義。その欠点を補って余りある演出のパワーがアルジェント映画の醍醐味だったわけだが、もはやそれも望むべくもないのかと思うと寂しい。
ぜんぶ、アルジェントのせい
なぜ、いきなりゴア描写になるのか? なぜ、四十路近い娘をまだ脱がすのか? なぜ、エンディングにロックナンバーが流れるのか? そして、なぜ…カマキリなのか!? 答えはダリオ・アルジェント監督作だから!
コッポラの『ドラキュラ』にケンカを売った御年73歳の変態ジイさんの暴走は誰にも止められず、あのルトガー・ハウアー演じるヴァン・ヘルシングが出オチにみえてしまうほど。前半と後半で主人公が変わる展開に困惑する暇もなく、大林宣彦監督にも似た狂気を感じるだけだ。しかも、残念ながら日本は2D上映のみだが、それでも『悪魔のはらわた』に近い3Dのトゥーマッチ感が胸やけするほど伝わってくる。
古典を撮ってもアルジェントはアルジェント
ブラム・ストーカーのおなじみの古典の映画化で目新しさはないと思われるかもだが、『サスペリア』の奇才ダリオ・アルジェントが撮るとなれば話は違う。案の定、アルジェントらしさが炸裂する怪作に!
吸血描写は官能的というより、えげつないほどエロティック。愛娘の女優アーシアも父の怪腕に応え、全裸をいとわず奮闘。首が飛ぶ肉体損壊はもちろん、通過する弾丸が口から見えるやり過ぎの描写まで、とにかく過剰でインパクトが大きい。
アルジェント初心者にはイビツに見えるかもしれないが、そのイビツさに醍醐味があると考えるファンには嬉しい逸品。古典に臆せず、破綻を恐れない奇才の若々しい演出に唸った。