マエストロ! (2015):映画短評
マエストロ! (2015)ライター3人の平均評価: 3.7
音楽本来の歓びにベタな展開も許せてしまう
名門オーケストラの解散で仕事にあぶれていた団員たちが、再結成の一報を受けて集まったものの、待っていたのは素性もよく分からない指揮者の型破り過ぎる指導だった。
クラシック業界にありがちな諸問題やシガラミなどを散りばめつつ、互いに共鳴し、調和し、一体化していく“音楽”そのものの理想と歓びを高らかに謳いあげる。演奏家としてのアイデンティティを再認識していく展開はベタだが、ジャンルに関係なく音楽ファンならば少なからず共感できることだろう。
相変わらず芸達者な西田敏行をはじめ、特訓を重ねて演奏家になりきった役者たちの佇まいにも説得力あり。映画的に欠点がないわけではないが、それも許せてしまう好編だ。
マニアじゃなくてもクラシックの深さが覗けます。
定番中の定番ながらクラシック・マニアにとっても奥の深い二曲を俎上に乗せ、異才指揮者の解釈というかたちを借りてユニークに分析。内情をよく知る者ほど苦笑いのオーケストラあるあるを絡めつつ、最終的には西洋芸術音楽の理想である「宇宙そのものが響きあう」次元まで描こうと果敢に挑んだ稀有な作品。こういう映画で下手糞だと瞬時に鼻白むのが演者の弾き真似・吹き真似だがそれも問題なくクリアだ。喰い足りないエピソードもあるけれどこれだけ音楽面がしっかりしてるとさほど気にならず。…ま、関西人なら「二代目局長が主役かぁ」とか「お弟子のテントが美味しい役やねぇ」とか、そっちは気になっちゃうけどね。監督が監督だからさ。
「ナイトスクープ」ファンならマストです。
韓流ドラマ「ベートーベン・ウィルス」の元ネタといえる原作だが、本作と同じさそうあきら原作『神童』に続き、クラシックファンも納得の本格的な仕上がり。しかも、圧巻のクライマックスで演奏されるのは、誰もが知るベートベンの「運命」とシューベルトの「未完成」で、それらの解説も丁寧にされるなど、初心者にもやさしい作りだ。
本作が女優デビューのmiwaに関しては、第一声を聴いたときは誰もが不安を覚えるが、次第に違和感なく、物語に溶け込んでくる存在感を放つ。なにはともあれ、初代局長のご子息である小林聖太郎監督が、二代目局長を主演に迎えたということで、「探偵!ナイトスクープ」ファンならマストである。