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消えた画(え) クメール・ルージュの真実 (2013):映画短評

消えた画(え) クメール・ルージュの真実 (2013)

2014年7月5日公開 95分

消えた画(え) クメール・ルージュの真実
(C) CDP / ARTE France / Bophana Production 2013 - All rights reserved

ライター4人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.8

中山 治美

カンボジアの悲劇を雄弁に語る、愛しき土人形たち

中山 治美 評価: ★★★★★ ★★★★★

 想像して欲しい。何者かによって強制的に家族写真や思い出の品を破棄させられたから、記憶を辿りながら土人形に命を吹き込む。しかもその土は、殺害された人たちの血や涙を吸い込んでいるかもしれないものだ。そうしてリティ・パニュ監督は、頭から消えることのないポル・ポトによって汚された少年期の忌まわしくも、しかし家族と過ごした貴重な記憶を再現した。こんなに切ない喪の作業があるだろうか。
 パニュ監督は長年、クメール・ルージュによって消された歴史を、発掘・保存する活動に身を捧げてきた。その執念や怒りは、翻って豊かな創造を生み出す原動力となりうることも本作で実証したと言えるだろう。

この短評にはネタバレを含んでいます
ミルクマン斉藤

自死した父も最初は信じた“ファシストの嘘”。

ミルクマン斉藤 評価: ★★★★★ ★★★★★

死者の埋まった水田の土と水で、その死者たちの泥人形を作る……なんと素晴らしくアジア的でアニミズム的な趣向ではないか。クメール・ルージュ独裁以前のフィルム(歌と踊りの娯楽映画含む)は失われ、残ったのは個性と感情を否定され、人間がただの機械部品として機能する“理想世界”を宣伝するプロパガンダ映画だけ(考案された老人介護機は『モダン・タイムス』の機械そっくり。笑えない)。ほとんどが惨酷な状況下で“消えて”しまった、その時代の人々の真実の声を、精緻なジオラマの中に置かれた動かない泥人形たち(これはアニメーションではない!)が語り叫ぶ。その雄弁さに、いささか招霊の儀式めいた神秘を感じたのは僕だけか。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

素朴な人形たちが恐怖政治の実態を如実に物語る

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 思春期に強制労働キャンプで両親や親族を失い、たった一人で生き延びたという壮絶な経験をしたリティ・パニュ監督が、初めて自らの暗い生い立ちと向き合ったノンフィクション。
 カンボジアで170万人もの命を奪ったクメール・ルージュの大虐殺。その犠牲者が眠る土から作られた人形を使って、パニュ監督の過去が再現される。なんの変哲もない普通の人形だが、交互に挿入される当時のプロパガンダ映画に映る空虚な人々の姿と対比されることにより、いつしか豊かな感情と魂が宿っていく。その繊細な叙情性は、逆に恐怖政治の実態を感情的に強く訴えかける。ショッキングな記録映像を見せられるよりも、それはある意味ではるかに生々しい。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

「記録」以上に真実を語る「記憶」の土人形たち

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

ポル・ポト率いるクメール・ルージュの虐殺を扱った劇映画では『キリング・フィールド』が有名だが、本作『消えた画』の生々しい悲痛さには比べようもない。少年期に内戦を体験して家族を失った監督リティ・パニュが、数百万人もの犠牲者が眠るカンボジアの大地を材料にした手作りの土人形を使って自らの記憶を映画にしたのだ。

かつてパニュは『S21』という『アクト・オブ・キリング』の先駆け的な手法のドキュメンタリーを発表しているが、今作のリアリズムを超えた表現の方が、映画の持つ「伝える力」の真価を教えてくれる。これは念のこもった悲しい絵本のようであり、中沢啓治にとっての『はだしのゲン』に当たるものかもしれない。

この短評にはネタバレを含んでいます
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