シェフ 三ツ星フードトラック始めました (2014):映画短評
シェフ 三ツ星フードトラック始めました (2014)ライター4人の平均評価: 3.8
ここで描かれている世界は、全てのものづくりに通ずる
マイアミを起点に、自分の失態から離れざるを得なかったロサンゼルスを目指す料理人の“復活の旅”。フードトラックと一心同体となった製作、監督、脚本、そして主演J・ファブローのインディー魂にグッときつつ、本作がロードムービースタイルをとりながら、「融合」を主題にしていることに気づく。(食)文化然り、音楽然り、親と子の関係然り。例えばキューバサンドイッチは、フロリダに渡ったキューバ移民が葉巻工場を興し、手軽なランチとして口にしていたものが広がったのだった。旅の合間に紹介される代表的なソウルフードも、実は文化的ミクスチャーの賜物。SNSの物語への絡ませ方も含めてこれは、極めて現代的な映画だと思う。
R.ダウニーJr.のシーンは常軌を逸してます(笑)。
J.ファヴローの作演出家/俳優としての優しさ・男の子っぽさが最良の形で表れた快作。父と子のドラマとしては文科省特選もの、デジタル文化の世代間格差の扱いも洒落ている。豪華俳優陣も出演時間の長短を問わず魅力的。なにより素晴らしいのはロードムーヴィとしての質の高さ。マイアミ(キューバン・サルサ)→ニューオリンズ(クレオール)→オースティン(ブルース・ロック)→LA(ファンク)とそのまま米国横断音楽地図だし(ラテン音楽好きの僕は選曲に唸りっぱなし!)、その土地にはその土地の文化があり食事があることを具体的に示すことで、さまざまな人種・文化の総合体であることこそを誇るアメリカ賛歌になっているのだ。
創造性を破壊する商業主義に喝!なフィール・グッド・ムービー
ハリウッドはシリーズ物かアメコミ映画に頼り切りだけど、スタジオ大作と映画芸術は相容れない? 安定メニューを信じるオーナーに従ってグルメ評論家に貶された主人公カールの姿が批評家によって『カウボーイ&エイリアン』を抹殺されたジョン・ファヴロー監督とかぶる。どん底に落ちたカールが始めるフードトラックは、監督のルーツであるインディーズ映画界のメタファーなのだ。創造性を破壊する商業主義に反旗を翻しながら、父子愛や友情も盛り込んだフィール・グッド・ムービーに仕上げたファヴローの流儀、好きだな。食いしん坊としてはケイジャン料理やテキサスのBBQなどアメリカの美食を盛り込んだ展開にもウキウキ。
美味しい要素がゴッタ煮状態
脚本デビュー作『スウィンガーズ』を愛する者として、なぜジョン・ファヴローが『アイアンマン3』を蹴ってまで本作を撮りたかったか、痛いほど分かる。『スウィンガーズ』のコメディアンと本作のシェフ、職種は違えど、夢を叶えてしまった主人公が新たな道を選ぶ、いわば続編といえるからである。もちろん、それはヒットメイカーになったファヴロー自身にも重なるわけで「やりたいことをやるだけだ」という声が聴こえてきそう。コース料理からジャンクフードまでのグルメ要素はもちろん、SNSに対する風刺や父子愛を描くロードムービー。そして、存在感たっぷりのゲスト登場と、ベタながら目にも美味しい要素がゴッタ煮と、飽きさせません。