靴職人と魔法のミシン (2014):映画短評
靴職人と魔法のミシン (2014)ライター3人の平均評価: 2.7
魔法のミシンのアイディアは面白いのだけれど
ニューヨークのユダヤ人街で靴の修理屋を代々営む内気な男性が、倉庫の奥にしまわれていた古いミシンで修理した顧客の靴を履いてみたところ、なぜかその持ち主に変身してしまう。
かくして、様々な靴を魔法のミシンで修理しては履き替え、他人の人生を垣間見ていく主人公。そんな彼が次第に自信と活力を取り戻し、やがて悪徳不動産業者に狙われた地域の危機を救うことになる。
シュールなファンタジーの要素を含んだ設定は、オリジナリティがあって面白い。ウディ・アレン的なユーモアと世界観も楽しいのだが、結局は“魔法のミシン”のアイディアが全てで、物語を膨らましきれなかった。ダスティン・ホフマンの扱いも勿体ない。
毒があるとも言い難い、ちょっと幼稚な寓話。
自分のプロダクションで量産する馬鹿コメディの系統ではないアダム・サンドラー主演作だが、『パンチドランク・ラブ』や『スパングリッシュ』や『再会の街で』ほど彼の美質を上手に引きだしてはいない。なんせアイディア自体が馬鹿コメディ以上に他愛なさ過ぎるし、変身しちゃえば演者も別人に交代するわけでそれがなんとももどかしいのだ。軽快なジューイッシュ・ジャズは耳残りするものの、ユダヤ人云々にさほどの比重も置かれないし、隣人の理髪師スティーヴ・ブシェーミ(多分イタリア系)や反都市開発活動家のラティーノ女性とのやりとりが愉しいように、彼らの住む歴史ある区域こそが主人公、みたいな雰囲気の作品なのだな。
ただのちょっといい話…じゃありません。
不遇な扱いを受けるアダム・サンドラー主演作ながら、近年のウディ・アレン監督作を扱う配給会社によって日本公開ということで、一見NYの下町を舞台にした『再会の街で』『スパングリッシュ』な“ちょっといい映画”枠にも見える。だが、そこは毒っ気だらけだった『カールじいさんの空飛ぶ家』の原案で知られるトム・マッカーシー監督作。ドンデン返しアリの大人のファンタジーをベースに、ギャングも絡んだ犯罪サスペンスになったかと思えば、美味しい役回りのブシェミとの名コンビっぷりも見られる『ハンサムスーツ』的なおバカ・コメディという、一筋縄ではいかない仕上がりに。やたらツッコミどころ満載なのも、ご愛嬌といったところだ。