名もなき塀の中の王 (2013):映画短評
名もなき塀の中の王 (2013)ライター2人の平均評価: 4
刑務所の閉鎖空間で人間性に目覚めていく狂犬のような若者
愛情や優しさを知らずに育った狂犬のような若者が、刑務所の過酷な閉鎖空間の中で他者との関わり方を学び、やがて人間性に目覚めていく。
重要な鍵を握るのは、同じ刑務所に収容されている実の父親との関係。暴力でしか愛情を表現できない屈折した父親の存在は、若者にとってある種のトラウマであり呪縛であるからだ。とはいえ、ただでさえ憎らしい父親が塀の中で若い男の愛人なんか作ってたら、余計に受け入れられないだろうとは思うのだが…(^^;
また、囚人同士の派閥争いやイジメ、看守の汚職などが蔓延る刑務所内の日常も徹底したリアリズムで再現され、その小さな世界を荒廃した現代社会の縮図として描いている点も面白い。
あるいは「父性」と「教育」についての寓話かもしれない
怪作が並ぶD・マッケンジー監督の中でも、これは頭ひとつ抜けているのではないか。器は「監獄映画」、中身は「青春映画」。その大枠の中で様々なジャンルやカテゴリーの諸要素を配合し、観客の既視感の隙間をぬってオリジナルな映画の形を創造している。
歯ブラシに剃刀をくっつけ、筋トレ……と脱獄モノ的な描写で始めつつ、父と息子の絆、怒りや暴力衝動を鎮めるセラピーなどに旋回し、全体としては世界との調和の回復が主題となる。
刑務所でのサバイバルの様相は『預言者』に近く、男子版『17歳のカルテ』的な部分もあるが、結局どれにも似ていないのが凄い。初めて“人間性”に出会う若い獣のようなJ・オコンネルの演技も圧巻!