ひつじ村の兄弟 (2015):映画短評
ひつじ村の兄弟 (2015)ライター2人の平均評価: 4
大自然の中で人間を観察するような妙味がそこに
空、雲、山、丘、川、風、草原……優美な曲線と色合いを持つ、アイスランドの丘陵地帯をとらえた映像が圧倒的。人間の営みは、この雄大な絵の中では小さく思えてしまう。
疫病の発生による羊の殺処分は、優良種を代々受け継いできた主人公の羊飼い兄弟にとって深刻な事態。その悲劇性を強調せず、自然の中の出来事のようにとらえているのが面白い。
隣に住んでいるのに40年も口をきいていない兄弟の断絶も同様だ。雄大な自然の中では、それは不穏というより、むしろ穏やかで時にユーモラス。仲違いした理由は説明されないが、少しずつ彼らの性格や生き方の違いが少しずつ見えてくる。そんなナチュラルな描写も妙味。
年老いた羊飼い兄弟の確執が失われ行く伝統への郷愁をかき立てる
住民の大半が羊の牧畜で生計を立てるアイスランドの小さな村で、長年に渡って仲違いを続ける老兄弟が、突如勃発した疫病騒動によって歩み寄らねばならなくなる。
全体的にセリフが少ない本作は、兄弟の確執の原因についてもほとんど語られることはない。しかも、アイスランド独特の風習に根ざした要素も多いので、日本の観客にとって理解しづらい点も少なくないだろう。
しかし、過酷な自然環境の中で代々の牧畜業を守る兄弟の愛と憎しみは、どこまでも頑なであるがゆえに切なくも滑稽であり、まるで時代の流れに抗い続けてきた伝統文化の象徴のようだ。そう考えると、悲劇的でありながらも安らぎをたたえたラストの意味も分かるはずだ。