エイリアン:コヴェナント (2017):映画短評
エイリアン:コヴェナント (2017)ライター7人の平均評価: 3.6
狂暴性を歓迎! SFスリラーに立ち返る
“創造主と創造物”というテーマに寄り過ぎて少々難解だった『プロメテウス』に比べ、“エイリアン”のタイトルを冠したことからもわるかとおり、今回は本来のSFスリラーらしさが戻った。
宇宙船クルーの壮絶なサバイバルというシリーズの基本は押さえられ、クリーチャーのグロ・ビジュアルも新鮮。寄生体の背中を突き破る誕生シーンはインパクトがあるし、ゴア濃いめのバイオレンスもファンには嬉しい。
驚いたのはシリーズ中もっとも救いのない結末であったこと。その衝撃を含め、SFスリラーとしての味を存分に感じることができる。R・スコットが一作目につながるという次作で何を見せてくれるのか、楽しみになってきた。
欲望に忠実で、情の欠片もない“完全な命”こそ究極の恐怖
前作『プロメテウス』よりも『エイリアン』第1作要素は加味され、より残虐性が増した。リドリー・スコットは、視覚的に震え上がらせる方法論から転じ、ストーリー上の恐怖を追求する。リプリーを思わせる強きヒロインは登場するが、真の主役は、前作で「誰でも親の死を望むもの」と口走ったアンドロイドのデヴィッド。手掛かりは、フランケンシュタイン博士と怪物の物語。異星人と人間/人間と人造人間/人造人間と異生物を、造物主と被造物の永遠の関係性として捉え直す。スコットのもうひとつの伝説『ブレードランナー』とも通底するが、本能と欲望に忠実で欲望を満たすためだけに生き、情の欠片もない“完全な生命”こそ究極の恐怖だ。
『エイリアン』シリーズらしい正統派SFホラー
『プロメテウス』の続編であり、『エイリアン』の前編に当たる。ビジュアル的な世界観としては『プロメテウス』寄りだが、内容的にはオリジナルのDNAを受け継いだ正統派SFホラーだ。
興味深いのは、リドリー・スコット監督自身の手による1作目だけでなく、『エイリアン2』以降の続編群を彷彿とさせるような見せ場もたっぷりと含まれていること。さながらベスト盤的な趣きだが、それゆえ既視感の強さも否めない。
クライマックスのオチも想像通り。なにかと意外性に乏しい点は不満だが、総じて手堅く作られており、そういう意味では『プロメテウス』に戸惑ったファンも楽しめるはず。ジェームズ・フランコのカメオ出演にも要注目。
造形や映像は絶品だけど、物語は王道のB級ホラーでした
『エイリアン』以来、ファンを恐怖に陥れてきた擬態性エイリアンのオリジンがわかる作品で、シリーズの多分フィナーレ? 宇宙移民船がうっかり立ち寄ってしまった謎の惑星のダークな陰影やオーガニックな造形物は荘厳なくらいに美しいし、特撮も感動ものの巧みさ。なのに物語がB級ホラーなのだ。宇宙船の乗組員といえば頭脳明晰なはずなのに、「そこに入っちゃダメ」という道に入り込んで殺人鬼に襲われる高校生集団のよう。それはそれで面白いが、M・ファスベンダー演じるアンドロイドにシリーズのリンクを託しすぎて、作品自体が箱物行政ぽくなった。そのせいで「アンドロイドの髪がなぜ伸びる」なんて瑣末な部分が気になる結果に。
エイリアンが新たな物語に生まれ変わる
第1作「エイリアン」のリドリー・スコット監督自身が、新たなエイリアン神話を創造した。この映画を見ると、これまで"エイリアン"という存在について抱いていたイメージが変化する。そして、リドリー・スコット自身によるもうひとつの神話の再構築、「ブレードランナー2049」に通底するモチーフがあることにも気づかされる。この監督は今、何に興味を持っているのか。それを知る手がかりとしても見ておきたい。
映像はこの監督らしい端正さ。色調は「エイリアン」第1作ポスターの緑色の印象を踏襲して、彩度の低い灰緑色で統一され、光は常に微量。終末的な気配と文学の香りが濃く漂う、新たなエイリアン世界が出現する。
前作に比べ、ファンサービス強化!
多くの問題点を残した前作『プロメテウス』での反省点を生かしたか、“『エイリアン』前日談”とハッキリ銘打った今回は、オープニング・タイトルに始まり、水飲み鳥やタンクトップ姿を登場させるなど、強引さも感じさせながら、シリーズのファンサービス満載だ。ただ、てっきり継続すると思われた前作ヒロイン、エリザベスの後日譚があまりに…なうえ、前作以上にガチなマイケル・ファスベンダー映画になったのは意外。タイトルである「契約」に対する謎解きも見どころだが、リドリー・スコット監督の前作が『オデッセイ』だったことや、『パッセンジャー』『ライフ』など、今年日本公開されたSF映画の集大成と観ると、より興味深く楽しめる。
怖くてえぐい、王道ホラー
人間の中からクリーチャーがうまれてきたり、シャワーでいちゃいちゃしている時にクリーチャーが忍び込んできたり。血もゲロもいっぱい出る、 王道のホラーで、文句なく怖い。冒頭でも示唆されるものの、「プロメテウス」とのつながりが本当にわかるのは、映画が中盤に差しかかってから。そしてそこはまさにマイケル・ファスベンダーの見せ場。最後のサプライズ(?)は、先を想像しないで見るようにしている筆者ですら読めたが、そこは作り手もわかってやっているかと思うし、それでもやっぱりぞっとさせられた。きゃーきゃー言って楽しめばいい映画である一方、人工知能が進みすぎることへの恐怖をちらりと考えさせたりもする。