教授のおかしな妄想殺人 (2015):映画短評
教授のおかしな妄想殺人 (2015)ライター3人の平均評価: 3.3
音楽の意外性も含めて、アレンの職人芸を堪能
インテリなのに生き方はダメダメな、そんな男の情けなさにフォーカスする、いつもながらのアレン節。今回は殺人を扱っているが、軽すぎず重すぎないブラックユーモアに妙味アリ。
殺人という題材自体シリアスに扱えばサスペンスに偏るところだが、“情けなさ”を見つめているぶん、笑いのほうに物語は傾く。ヒロイン、エマ・ストーンのおきゃんな個性の効果も計算しつくした見事な職人芸。
意外だったのは、過去のアレン作品を彩ってきたスウィング・ジャズではなく、ソウル・ジャズを配してきたこと。メインテーマのように何度も起用される“The In Crowd”等の楽曲は、スウィング的ドタバタ感より”粋”重視で、妙味。
エマ・ストーンはもうW・アレン作品にでない方がいいな
全体的に既視感があり、ヒッチコックの名作『見知らぬ乗客』を知る人は「えっ」と思うはずだけど、よくも悪くもアレンのファンにはたまらないだろう。各キャラと設定を語る前半はアクビが出るほど退屈だが、自分を見失っていた大学教授が完全殺人を企てたとたんに生き生きし始めるあたりからはホアキン・フェニックスが想定外のコメディセンスを披露し、楽しい。悪人顔なのが辛いが、引き出しの多い役者だ。残念なのが女優陣で、エマ・ストーンもパーカー・ポージーも実力と魅力をまったく発揮できていない。『マジック・イン・ムーンライト』も同様だったし、エマはアレン作品が合わないのだろう。これで打ち切りにしてほしい。
「ヴァリエーション」のヴェテラン名人芸
ラムゼイ・ルイス・トリオの音楽が流れてきた瞬間からワクワク。やっぱりW・アレンは「俺スタイル」の変奏が巧い! 殺人ミステリー風の展開は『マッチポイント』と比較できるが、全体としては『ハンナとその姉妹』や『重罪と軽罪』等に連なる哲学喜劇の趣。ただホアキン・フェニックスがアレン流の神経質な知性に、獣性と色気を加える。
「人生は無意味である」というニヒリズムから、「目的」を得ることで生きる活力を回復させる――という実存主義の定式を、いまどき真っ当に料理するのはアレンだけだろう。エマ・ストーン扮する女子大生は、ハイデガーと恋愛関係にあった若き日のハンナ・アーレントのパロディのようにも見えるなあ。