空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎 (2018):映画短評
空海-KU-KAI- 美しき王妃の謎 (2018)ライター3人の平均評価: 2.7
『怪猫長安御殿』または『名探偵クーカイ/楊貴妃の死を暴け!』
6年がかりで再現されためくるめく色彩感覚の長安の街は、極楽浄土のようで映画美術を超えた。日中合作とはいえ、徳間康快が支援し続けた時代は遥か昔、これは中国の国力を示す一大事業だ。かつて権力に牙をむいたチェン・カイコーは、市場経済の中で大資本を動かす幻想映画の巨匠の地位を上り詰める。邦題はミスリードする。高僧が奇跡を起こすスペクタクルとは無縁で重厚感はなく、空海は怪事件を追う名探偵にすぎない。原題は『妖猫伝』。永田雅一率いる大映の遺伝子を継承するKADOKAWAとしては、初期ヒット作「化け猫映画」に回帰した。『怪猫長安御殿』や『名探偵クーカイ/楊貴妃の死を暴け!』の方が動員は伸びたかもしれない。
長安の広大なセットを筆頭にすべてが壮麗!
長安に留学中の空海が若き日の白居易と組んで怪死事件の謎を解くのだが、史実と創作を巧みに組み合わせた夢枕獏節にはやはりワクワクする。出演陣も豪華で、特に空海の超人的な部分とお茶目な部分をバランスよく演じた染谷将太と楊貴妃役のチャン・ロンロンが魅力的だった。また「街を作る」と宣言したチェン・カイコー監督が4年がかりで建築した長安の広大なセットに度肝を抜かれっぱなし。007に登場しそうなエキゾチックな妓楼やシルク・ド・ソレイユ風な宴、贅を凝らした衣装や美術を見るとついつい製作資金は?と考えるが、すべてがとにかく壮麗なスペクタクルだ。特撮がユルユルな場面も見えたが、大目に見てしまった。
中国版「陰陽師」いうより「シャーロック」
「陰陽師」の夢枕獏テイストと、『王朝の陰謀 判事ディーと人体発火怪奇事件』に代表される、流行りの“中国版「シャーロック」”テイストが合致したことで、とんでもないスケールになった超大作。空海は売り出し中のホアン・シュアン演じる白楽天を引き立てるワトソンな役割とはいえ、染谷将太は妖しい魅力で健闘。冒頭のキティ・チャンも妙にエロい。とはいえ、完全に映像重視の大味さゆえ、相変わらずチェン・カイコー監督が撮る意味が不明。かといって、『PROMISE 無極』のようなトンデモ映画になるわけでもなく、いろいろ中途半端な仕上がりに。ちなみに「日本語吹替版」のこだわりは、『敦煌』のような邦画大作を狙ってのことか?