フィッシュマンの涙 (2015):映画短評
フィッシュマンの涙 (2015)ライター2人の平均評価: 3.5
ある意味、「いかれたBaby」な話。
人体実験の副作用から「見た目は魚、頭脳はフリーター」になった男の“変身”話を、日本で描くと『魚介類 山岡マイコ』のようなポップな不条理コメディになるだろう。だが、ルネ・マグリットの油彩画「共同発明」にインスピレーションを受けた韓国の新鋭が監督し、イ・チャンドンがプロデュースすると、ファンタジー要素がありながら、ここまで風刺的な社会派ドラマになる。魚男や彼を取材する見習い記者は、フツウが当たり前じゃなくなった現代の韓国社会で、「ヘル朝鮮」と自虐する若者の姿そのもの。パク・クネ大統領のスキャンダルを機に怒りが爆発した彼らの“前日譚”として観ると興味深いが、やたら『アメリ』な劇伴は気になる。
奇想天外な設定だけど、テーマは実に深淵です。
気がついたら魚になっていた、というカフカ的な人生を送ることになった青年パクをめぐるコメディかと思ったら……。ネットセレブになりたい元恋人や正社員になりた見習いTVマン、名声目当ての弁護士がからんで魚男パクは翻弄されっぱなし。彼を待ち受けるさまざまな状況はまさに韓国社会の今を映す鏡であり、クォン・オグァン監督は奇想天外な寓話に深遠かつ社会的なテーマを盛り込んでいるなと心底感動。財閥への怒りをぶつける勧善懲悪物が多かった韓流だが、これは社会や体制はもちろん、流れに身を任せる庶民をも暗に批判した点でさらに一歩進んでいる。そして魚男の造形がまた素晴らしく、映画製作や特撮に興味がある人は必見でしょう。