ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ (2016):映画短評
ウィーナー 懲りない男の選挙ウォーズ (2016)ライター3人の平均評価: 4.7
ダメ男の野心、そして献身的な女性の悲恋
こういう映画を見ると、政治家には表の顔と裏の顔があるのだなあと、つくづく思う。
選挙民を引き寄せる戦略的野心の一方で、人には言えない個人的な愉しみがある。政治家ウィーナーは前者の欲求も後者の欲求も人一倍だが、それを両立させられるほど器用ではなかった。結果的に、スキャンダルによってボコボコに叩かれるのだが、それでも憎めないのは不器用さを含めて、邦題の“懲りない”部分がよく表われているからだろう。
彼を憎むことが許されるのは、おそらく元妻だけだ。選挙運動に協力するも、夫のスキャンダルが発覚する度に笑顔が消えていく。彼女の視点に立ってみると、このドキュメンタリーは悲恋の記録にも見えてくる。
“エンタメ病”を満足させる現実は常に開幕している
「政治」と「性癖」は何の関係もないんだけどね――のひと言で本来済むはずが、相当有能だったはずのイケメン政治家を完全に潰してしまう。ただ一方で、こんなに隙だらけなら生き馬の目を抜く現場の闘争に耐えられないかもなあ、とも思ったり。この両面から「炎上」という問題をあぶり出した、まさに「現代的だわね」の傑作!
最も深刻な“病”は、この密着ドキュメントが「めっちゃ面白い」ってこと。他人の失敗は蜜の味――と言うが、なぜ我々は必死なウィーナーの赤裸々な姿を娯楽的に消費してしまうのか? エンドロールでジョン・ウォーターズ先生がちらりと顔を見せているだけに、余計に“黒い笑劇場”の印象が増すのであった。
SNSに人生を破壊された(?)男の浮き沈み
トランプ大統領誕生のきっかけを作ったセクスティング男として歴史に名を刻んだアンソニー・ウィーナー。ツイッターでもっこり股間や半裸の写真を女性たちに送りつけていたバカ男が政界カムバックを目指す姿は、意外にも心に響く。名誉欲よりも庶民の生活をより良くしたい欲が彼を突き動かしているのもわかるし、過ちを許せる気さえする。彼の善意を信じたい才媛の妻フーマの葛藤もまた本作の核であり、政治愛で結ばれた夫婦の脆さがくっきり。フーマにはメンター、ヒラリー・クリントンほどの肝っ玉はなかったね。「SNSに人生を破壊された」と主張するウィーナーに「あんたの性欲のせいだよ」と言ってやりたくなるのもこの映画の魅力!