ノクターナル・アニマルズ (2016):映画短評
ノクターナル・アニマルズ (2016)ライター5人の平均評価: 4
デビュー作より野心的。余韻あるラストが想像力を掻き立てる
デビュー作「シングルマン」より良い意味で野心的。現在、フラッシュバック、劇中劇が交錯する今作には、ミステリー、犯罪ドラマ、恋愛物の要素が、絶妙なバランスで盛り込まれている。女性に対するバイオレンス(悪人を演じるアーロン・テイラー=ジョンソンがとびきり怖い)のシーンは見るのにきついが、そこは主人公(エイミー・アダムス)の元夫(ジェイク・ギレンホール)が書いた小説、つまり劇中劇の部分。彼はなぜこのような作品を書き、彼女に送りつけてきたのか。すばらしい余韻を残す最後のシーンが、ますます想像力を掻き立てる。トム・フォードにはこれからも映画を作り続けてほしい。
捨て去った過去に復讐される心理の彷徨とハイアートの絶妙な融合
2本目にしてトム・フォードの監督としての才気が本物であることを見せつける、切れ味鋭いスリリングな一品だ。自らのアーティスティックな世界に引き寄せた脚色が見事。別れた夫から送られてきた小説。その暴力的で悲惨な物語が、元妻の主観を交えた妄想によって劇中劇となり、現実や回想と並行する複雑な構造。レイヤーを行き来しながら保つ、張り詰めたテンションが凄まじい。これは捨て去った過去に復讐される女性心理の不穏な彷徨だ。観る者にまで、その悔恨が突き刺さる。ハイアート志向と内面の掘り下げが絶妙に一体化している。冒頭のヌード女性や赤いソファなどアートが意味するものに注目しながら、隙のないビジュアルに酔うべし。
愛が冷めたとき、自己チューになるのはNG
トム・フォード監督の新作は、1粒で2度美味しいタイプのドラマ。ひとつは、LAセレブであるヒロインが手にしたと思っていた幸せがいかに薄っぺらいかに気づくまで。そしてもう一つが彼女に封印した罪悪感を思い起こさせる残酷な復讐劇。後者はヒロインが読んでいる小説を可視化した劇中劇で、これがコーマック・マッカーシー作品?と思えるほどハードボイルド。モラルに囚われない刑事を演じるマイケル・シャノンの言動に溜飲が下がる人も多いだろう。もちろん主軸はエイミー・アダムス演じるスーザンの心情の変化で、愛する人を裏切ることは後悔しか生まないと教えてくれる。愛が冷めたときは、相手を傷つけないように別れましょう!
"視覚表現によって物語を描くこと"が実践される
映像が強い。ストーリーが強い。まず冒頭で、スクリーンの上に現れるものの力に圧倒される。そのまま映画全編で"視覚表現によって物語を描くこと"が実践されていく。
併せて興奮させるのは、映画の構造の巧さと、語り口の技。映画は、ヒロインの生活と、ヒロインに送られてきた前夫が書いた小説の中の出来事、ヒロインが思い出す彼女と前夫の過去、その3つの物語が重層的に描かれるのだが、その3つが"色と形"そして"言葉"でリンクしているのだ。そして、3つの物語が一つの結末に向かっていく。
監督は前作では共同脚本だったが、今回は単独で脚本を担当。物語は原作小説とはかなり異なり、この監督の脚色ぶりも興味深い。
トム・フォードはリンチの後継者か?
いきなり「デヴィッド・リンチか!」と思わせる強烈なタイトル・デザインで幕を開ける。しかも、原作がイヤミスだけに、トム・フォード監督の前作『シングルマン』のイメージを引きずって観るのは危険だ! ギャラリーオーナーのヒロインが20年前に別れた元夫の小説を手にする現在のLAと、大学時代の2人が出会った過去のNY。そして、前夫が書いたフィクションとして描かれるテキサスが、交互に描かれるトリッキーな構成で、これは前妻に対する未練なのか、それとも復讐なのか、と観る者の頭をかきまわす。前作に続き、アリアンヌ・フィリップスの衣装のほか、随所に登場するアート作品のテーマを踏まえて観ると、さらに奥深く楽しめる。