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エル ELLE (2016):映画短評

エル ELLE (2016)

2017年8月25日公開 131分

エル ELLE
(C) 2015 SBS PRODUCTIONS - SBS FILMS- TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION - FRANCE 2 CINEMA - ENTRE CHIEN ET LOUP

ライター6人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.7

なかざわひでゆき

常識とモラルに挑戦するヴァ―ホーヴェン流女性賛歌

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 社会通念的な常識やモラルからあえて逸脱し、型にはまらない人物造形やプロット構成で観客を確信犯的に困惑させるヴァ―ホーヴェン作品は、それゆえに賛否が大きく分かれがちだが、そういう意味で本作も極めて彼らしい映画だと言えよう。
 ネタバレを避けるために具体的な説明は省くが、本作に対する批判の多くは後半のヒロインの行動に集中している。ミソジニスト的な妄想だというのだ。しかし、果たしてそうだろうか?むしろ、これは怒りや悲しみを力に変えて人生を戦い抜いてきたヒロインが、レイプという直接的な暴力をきっかけに男の本質的な弱さを悟り、ようやく心の平安を取り戻す物語のようにも思える。ある種の女性賛歌なのだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
清水 節

「ノーマル」に背を向けて人間の本質をえぐり出す

清水 節 評価: ★★★★★ ★★★★★

 プロットを一言で言い表すなら「レイプされた女性の復讐譚」。だが彼女は泣き喚かず、被害者意識を振りかざさず、何事もなかったかのように日常へと戻り、成すべき事を成す。屈折、変態、常軌を逸している――メディアに跋扈するモラルや、メジャー作品に蔓延する紋切型表現に浸かったノーマルな世界では、そんな言葉に押し込めるしかない。彼女は決して気丈なキャラなのではない。善悪や強弱といった尺度でしか測れない者には、ゲスの極みにしか映らないであろう欲望、性癖、行動原理。複雑面妖な人間の本質がここにある。イザベル・ユペールの知的な演技を得て、ハリウッドでは異端視されてきたヴァーホーヴェンの真の集大成が完成した。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

キャラのクセがスゴいんじゃあ!

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

さすがは『ルトガー・ハウアー/危険な愛』観て、女優を目指したイザベル・ユペール! 何気ない顔して、寿司喰らう姿から『ピアニスト』を超えてくる。しかも、触手モノ開発中のエロゲー会社のワンマン社長にして、“犯罪者の娘”のレッテルを貼られたメンヘラキャラ。当初予定したアメリカ人女優から総スカンされるのも納得なぐらい、クセがスゴい。ほかにも、若い男のエキス吸い取る現役な母などの女性陣に対し、マザコン息子やオタ部下など、男キャラが徹底的に軟弱に描かれる面白さ。かなり早い段階でオチが読めるため、サスペンスとしては弱いが、ブラックコメディとして観ると「やっぱ、バーホーベンだな!」と思わせる俗悪な仕上がりだ。

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山縣みどり

ユペール様は歪んだ女が本当にお似合い!

山縣みどり 評価: ★★★★★ ★★★★★

冒頭のレイプ場面をはじめショッキングなシーンやセリフが多く、非凡をよしとするP・ヴァーホーヴェン監督の面目躍如。とはいえ自ら犯人探しに乗り出すヒロイン、ミシェルの復讐劇に終始せず、彼女がプライベートで抱えている問題が次々と噴出するのが妙味となっている。イザベル・ユペール演じるミシェルの周囲にいるダメ人間が織りなすドラマはかなりコミカルで、徐々に明らかになるヒロインの本性との対比も鮮やか。歪んだ女を演じさせたらユペール様の天下だな〜。アブノーマルな性衝動に突き動かされる夫を持つ女性たちの心労、お察ししますというオチもフェミニストっぽくて好き。物語とはあまり関係ないけど、猫を飼うのが怖くなるかも。

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猿渡 由紀

理屈はつけても、結局は男の妄想

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

アメリカの女優がみんな断ったという事実が、大胆さの証明みたいに語られているが、大胆で複雑な役は、むしろみんなやりたがる。彼女らが断ったのは、同じ女性として、共感ポイントとリアリティを見つけられなかったからなのではないか。主人公の暗い過去だのいろいろ出してきて、彼女の行動や心理を正当化しようするけれども、結局は、すけべ男の妄想映画。これは、性の解放とか女性のエンパワメントとか、そういうものとは何の関係もない。もちろんイザベル・ユペールは優れた女優で、今作での演技が過去よりとくに良いとは思わないものの、これでついに初のオスカー候補入りを果たしたことは祝福する。

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平沢 薫

歪んでいても、大丈夫

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 歪んでいても、イタくない。本作のヒロインがそれを体現してくれる。
 ヒロインは、かなり常軌を逸した行動をする人物で、硬く厚い殻で徹底防御し、無慈悲に敵を攻撃をするのだが、それでいて美しく、仕事は有能で、親友も元夫も愛人もいて、娘は普通に育って孫も生まれる。歪んでいても大丈夫、普通の生活は送れると示してくれるのだ。途中で主人公の過去が描かれて、彼女の歪みが生き延びるためのものだと推測される。歪んでも、生き延びること。そうすれば大丈夫なこともある。
 そんな人物像に説得力があるのは、イザベル・ユペールが演じているから。彼女が演じる主人公が、怖ろしく美しく魅力的だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
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