世界にひとつの金メダル (2013):映画短評
世界にひとつの金メダル (2013)ライター3人の平均評価: 3.7
心の成熟とともに人と馬が一体化するオリンピック馬術映画の快作
手に負えない暴れ馬と人間的に未熟な馬術選手の実話である。父の期待を裏切るかのように一度は馬術から遠のく。伝記映画では捨象しがちなネガティブな側面の数々が、ドラマを盛り上げていく。自身の本当の夢に気づき、馬との関係性にも変化が表れる。成熟によって一心同体となった人と馬の姿が感動的だ。ロスとソウルのオリンピックにおける馬術、障害飛越競技の再現性と、そのキャメラワークが見事だ。クリスチャン・デュゲイ監督と脚本・主演を兼ねたギョーム・カネは両者ともに馬術経験があり、そのこだわり抜かれた視点が緊張感を生む。2013年のフランス大ヒット作。公開まで4年かかったが、劇場スクリーンで観る価値は十分にある。
アスリートの根性ではなく、成長にフォーカス
スポ根映画というより、むしろ人間の精神的な格闘を見つめた力作。少々エゴイストである主人公が未熟さを脱し、アスリートとしてステップアップする、そんなドラマを核としている。
重要なエッセンスとなるのは主人公と愛馬との関係。気性の荒い愛馬との歩みは、調教段階から勝負が始まる障害飛越競技の特殊性を物語るとともに、ひとりで闘っているのではないことを学ぶ主人公の成長を伝える。それこそが、この物語の肝と言えよう。
アングルを変えながら飛越をじっくり見せる競技の場面も大きな魅力。ソウル五輪のクライマックスはしっかりしたドラマに支えられていることもあり、結果はわかっちゃいるが泣かされる。
『シービスケット』の系譜に連なる正統派馬術映画
実在したオリンピック馬術選手と競技馬を描いた作品。才能はあるものの劣等感を抱えた主人公が、挫折を繰り返しつつも周囲の人々の叱咤激励に支えられ成長していく。『シービスケット』と同様に、人間ドラマに焦点を絞って仕上げているため、馬術競技に興味がなくとも感情移入しやすい。
主演・脚本のギョーム・カネ自らが代役なしで競技シーンを演じているのもポイント高い。もともと馬術のジュニア選手だったそうだ。脇役もベテラン名優揃いだが、中でも日本公開が名作『赤と青のブルース』以来56年ぶりのジャック・イジュランには驚いた。それにしても、『スキャナーズ2』の監督がこのような正統派映画を撮るようになるとは。